2022 Fiscal Year Research-status Report
Understanding the electromagnetic field enhancements in two-dimensional materials and its application to optical rectenna
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22K04201
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Research Institution | Tohoku Institute of Technology |
Principal Investigator |
内野 俊 東北工業大学, 工学部, 教授 (40614970)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 表面増強ラマン散乱 / バイオケミカルセンサー / グラフェン |
Outline of Annual Research Achievements |
二次元材料は安価で、持続可能なクリーンエネルギーを実現する次世代電子デバイス材料として期待されている。特に、グラフェンはシリコンの約100倍の高移動度を示すほか、柔軟性や耐久性に優れていることからグリーンエレクトロニクス材料として有望視されている。近年、二次元材料で通常のラマン分光法よりも6桁以上高い感度を示す表面増強ラマン散乱(SERS)が観測された。SERS効果のメカニズムとして、金属表面のプラズモンに由来する電磁場増強や電荷移動共鳴による化学効果が提唱されているが、原子1個分の厚さしかない二次元材料の特異なSERS効果はまだ十分な理解が得られていない。そこで、二次元材料におけるSERS効果のメカニズムを解明し、感染症やガンなどを診断する超高感度バイオケミカルセンサーを開発することを目的として研究を行った。 初年度は、二次元材料のプラズモン増強場形成のメカニズムを解明し、SERS基板の高性能化を行った。最初に、薄層化したマイカ上にRFスパッタを用いて300℃の高温で銀を堆積した後、裏面に単層グラフェンを転写したSERS基板を作製した。銀薄膜表面には局在表面プラズモンを示すナノホールが自己組織的に形成されていた。被験物質として微量のローダミン6G 水溶液(1μM)を用いてラマン散乱分光を行った結果、グラフェン側を表面にして測定すると、裏面の銀からの反射によりSERS信号が大きく増強することがわかった。さらに、マイカ基板を通過したレーザー光を用いて測定すると、ローダミン6G起因の複数のピークを高感度に観測できることがわかった。これは、大気よりも屈折率や誘電率が大きいマイカ基板を通過したレーザー光が被験物質に照射したためと考えられる。また、グラフェンと被験物質間の電荷移動共鳴による化学効果がスローライト効果により増加したことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、二次元材料のグラフェンのプラズモン増強場形成のメカニズムを解明し、SERS基板を高性能化することを主眼にして研究を進めた。最初に、従来提唱されてきたメカニズムを検証するために、グラフェンのリップル効果について調べた。マイカ上に銀ナノホール構造を形成し、その上にグラフェンを転写した試料と裏面のマイカ上にグラフェンを転写した試料を作製し、そのSERS効果を調べた。その結果、原子レベルで平坦なマイカ基板上にグラフェンを転写した試料の方がより大きい増強効果が得られることがわかった。この結果から、グラフェンのリップル効果よりも支持基板の影響の方が大きいことがわかった。 そこで、マイカ基板を通過したレーザー光によるSERS効果を調べた。その結果、マイカ基板を通過したレーザー光を用いて測定すると、高感度に被験物質を観測できることがわかった。これは、マイカ基板の屈折率や誘電率が大気よりも大きいことに起因する。さらに、マイカ基板を通過したレーザー光のスローライト効果により、グラフェンと被験物質の相互作用が増加したことが示唆された。 次に、グラフェンと銀ナノホール構造を集積化したSERS基板を用いてバイオケミカルセンサーを作製した。疎水性を示すグラフェン上にサンドイッチELISAを構築し、疾患の原因となるサイトカインIL-6の微量検出を試みた。その結果、50 pg/mLのIL-6を検出することに成功した。また、本研究のバイオケミカルセンサーは、グラフェンやマイカ基板が銀を保護する役目を果たすので、従来のSERS基板より化学反応による金属の劣化や生体適合性が改善できることがわかった。しかし、高感度化や定量化の点で課題が残った。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、マイカ基板上に形成した銀ナノホールとグラフェン積層化した高性能SERS基板を開発し、SERS基板上にサンドイッチELISAを備えたバイオケミカルセンサーを作製した。その結果、疾患の原因になるサイトカインIL-6を検出することに成功した。しかし、高感度化や定量化の点で課題が残った。そこで、今後はシリコンチップ上にELISAを構築し、高感度かつ容易に定量化ができるバイオケミカルセンサーを開発する。 次に、グラフェンを用いて、シリコン太陽電池の2倍以上の変換効率が期待できる光レクテナの研究開発を行う。我々は、予備実験でグラフェン・横型トンネルダイオードを応用した光レクテナとトンネル絶縁膜を上下からグラフェンで挟んだ縦型トンネルダイオードを応用した光レクテナを作製した。横型素子では電子線描画でアンテナ領域を作製したため、トンネル長が50 nm以上になった結果、高性能が得られなかったが、縦型素子ではトンネル長が絶縁膜の膜厚分の20 nmになった結果、光変換効率0.07%を実現することができた。この結果は、従来の報告結果とほぼ同等の性能だった。 そこで、金や銀などのプラズモニック材料でナノ構造を形成した支持基板上に縦型素子を作製することにより、電場増強効果を用いて光レクテナの高性能化を図る。さらに、二次元材料の自己組織化プロセスを用いた光レクテナの作製を検討する。MoS2は原材料比に応じて三角形や六角形の結晶構造を形成することが知られているので、三角形の結晶を横並びに配置することで、ボウタイアンテナを作製することができる。ナノアンテナとトンネルダイオードが統合された光レクテナは、サブミクロン以下で集積化されているので、コプレナー配線により損失を抑えることができ、光変換効率の改善が期待できる。
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