2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K04507
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
神田 由築 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (60320925)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 芝居小屋 / 興行 / 歌舞伎 / 人形浄瑠璃 / 都市史 / 芸能者集団 / 近世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本近世の芝居小屋と芸能興行をめぐる建築的・空間的環境を明らかにし、歌舞伎や人形浄瑠璃などの芸能が全国各地で共通の文化的基盤を形成した背景を、都市史的な観点から探ることを目的とする。 2022年度は、瀬戸内海地域を対象に「線」形な展開形態を取る興行空間のモデルを提示する予定であった。しかし、新型コロナの影響で史料調査が難航し、新たな史料を加えることができなかったことに加えて、2023年度に検討予定の藩領内ではさまざまな芸能者集団が多数存在し、それにともない興行空間も予想したよりも複雑な様相を呈していることが見えてきた。そこで、興行空間を分析する前提として芸能者集団の動向を把握するため、まず2022年度は肥後国と播磨国における芸能者集団についての論考をまとめた。 肥後国熊本藩では18世紀初頭には旅役者と呼ばれる他領からの役者が領内に入り込み、祭礼芝居に出演していた。それが18世紀前半になると地役者と呼ばれる藩領内で活動する役者が成長してきた。また芝居が経済効果をもたらすにつれて、旧来の祭礼芝居以外の興行機会も拡大する。こうして地役者と旅役者の併存と相剋、領主権力との関係における、領域支配の論理と超領域的な市場原理との葛藤など、地域固有の現象と全国に共通する動向とが絡み合いながら、領内各地に芸能文化が浸透していった(「熊本藩領における地役者と旅役者」『部落問題研究』241)。 一方播磨国では18世紀に、身分集団としての由来や性質においては多様性を持ちながらも、芸能者としては傀儡師(人形遣い)ないし歌舞伎役者としての同質性を有する集団が多数形成されつつあった。彼らはやがて、18世紀後半からの新作浄瑠璃の人気によって、芸能者集団どうしの同質性を加速化させることになる(「播磨の芸能者集団」『社会集団史』)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、瀬戸内海地域を対象に、大坂を中心とする一円的な空間=文化領域を分析し、まず「線」形な展開形態を取る興行空間のモデルを提示する予定であった。しかし、二つの面で軌道修正する必要が生じた。一つは、新型コロナの影響で史料調査が難航し、新たな史料を加えることができなかった点である。そのため、2024年度に行う予定の、三都の寺社境内における興行空間の検討(具体的には金蓮寺と歓喜光寺)を前倒しすることにした。現在も歓喜光寺の史料分析の途中で、作業がやや遅れているが、早い時期に研究会等で報告し、レポートをまとめる予定である。 もう一つは、2023年度に九州地域を対象に藩領域という「面」形な展開過程を取る興行空間モデルを検討する予定であったが、熊本藩領では「地役者」と「旅役者」と呼ばれる集団が存在し、それにともない興行空間も予想していたよりも複雑な様相を呈していることが見えてきた。2021年度(科研開始前)から考察していた播磨国の事例からも、複数の支配領域が錯綜する播磨国内においては、大小さまざまな芸能者集団が多数存在することが確かめられている。よって、興行空間を分析する以前に、そうした芸能者集団の動向を把握する必要性が生じたため、まずは肥後国と播磨国における芸能者集団についての論考をまとめた。 以上により、芝居小屋や興行空間そのものの分析がやや遅れているため、2年目以降には本格的に建築的・空間的環境についての調査・分析を進めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、当初の予定を変更し、2023年度に検討予定の藩領内の芸能者集団の動向を把握するため、まずは肥後国と播磨国における芸能者集団についての論考をまとめた。 2023年度はこれをもとに、予定通り九州地域を対象として、祭礼市場に営まれた芝居小屋のデータを収集したうえで、「線」形で均質性の高い瀬戸内海地域の興行空間モデルと、それとは対照的に、藩領域という「面」形な展開形態を取る興行空間のモデルを提示したいと考えている。ただし、2022年度の分析により、さまざまな芸能者集団が多数存在し、それにともない興行空間も予想したよりも複雑な様相を呈していることが見えてきたため、そうした芸能者集団の多様性、さらには同一藩領内であっても平地や山間部など地形の違い、交通網の違い、文化の先進地域である大坂との距離の違いや、歴史的経緯の違いなど、個別の地域社会のありかたに応じて考慮すべき変数が多くなることが予想される。このような変数にできるだけ配慮しながら、興行空間を分析することが重要であると考えている。 また、2022年度に実施できなかった瀬戸内海地域での史料調査をできるだけ早期に開始し、研究の遅れを取り戻したいと考えている。2024年度に行う予定であった、三都の寺社境内における興行空間の検討(具体的には金蓮寺と歓喜光寺)も並行して行い、早い時期に研究会等で報告し、レポートをまとめたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2022年度は瀬戸内海地域を対象に、大坂を中心とする一円的な空間=文化領域を分析し、まず「線」形な展開形態を取る興行空間のモデルを提示する予定であった。しかし、新型コロナの影響で史料調査が難航し、旅費や謝金を使用することができなかった。そのため、その経費を2023年度に使用することとし、2022年度に行う予定であった瀬戸内海地域での調査および成果の整理、そして2023年度に行う予定である九州での史料調査と成果の整理とを合わせて行う計画である。
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