2023 Fiscal Year Research-status Report
可視光から近赤外光の波長可変励起による微弱光検出を利用した蓄光蛍光体の研究
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22K04682
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
奥野 剛史 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (70272135)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 蛍光体 / 蓄光 / 希土類イオン / 光刺激発光 / ユーロピウム / マンガン / 硫化カルシウム / 電子スピン共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
ユーロピウムとマンガンを添加した硫化カルシウム蛍光体において、赤色蓄光と光刺激発光をもたらずトラップ準位に2種類のものが存在することを見い出した。添加するイオン濃度および、青色光を1分間あてた後に暗闇で10分間以上検出できる赤色蓄光、そして、生じる赤色発光よりもエネルギーの小さな赤外光をあてて現れる光刺激発光との関係を詳細に調べた。さらに、マイナス200℃からプラス300℃に温度を上昇させた際に生じる熱蛍光測定を行い、赤色蓄光と光刺激発光を発現させるためにエネルギーを保持しているトラップ準位のエネルギー深さと量を評価した。蓄光の起源となるトラップ準位は室温領域のエネルギーに相当し、ユーロピウム濃度0.01%という極微量の添加によって最大となり、1100℃の熱処理によって繊細に減少した。一方光刺激発光をもたらすトラップ準位は、200℃程度のエネルギーに相当し、熱処理して蛍光体結晶を安定化させた方が増大した。蓄光に寄与する準位と光刺激発光に寄与する準位が異なることを明瞭に示している。 蓄光や光刺激発光を生じさせるトラップ準位にエネルギーを効率的に蓄積させることが、蓄光等の性能向上には必要である。エネルギー蓄積に用いる青色光の照射光強度依存を測定した。光刺激発光は、照射光強度の0.2乗に比例し、容易に飽和することがわかった。一方赤色蓄光は、測定した0.1 mW cm-2 までの範囲で照射光強度に比例した。はじめに光刺激発光をもたらすトラップ準位の方にエネルギーが蓄積され、その後に蓄光をもたらす準位に蓄積される。これまでは蓄光と光刺激発光について、あまり区別して研究されてこなかったといえる。本研究では、保持されているエネルギーを、光として、室温領域の熱によって取り出す蓄光と、赤外光によって取り出す光刺激発光について、トラップ準位の違いを示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光材料である蛍光体粉末自体にエネルギーを保持して、数分から数時間の時間領域でゆっくりとエネルギーを可視光として取り出す蓄光現象と、赤外光をあてることによって可視光として取り出す光刺激発光について、重要な知見がえられてきている。もともとの硫化カルシウム母体結晶に含まれていた硫黄欠陥が、蓄光をもたらす起源であると示すことができたが、それを熱処理によって制御することに成功した。赤色蓄光がまた、電子スピン共鳴を詳細に測定することにより、硫黄欠陥からの信号と蓄光とに相関があることを、熱処理の時間と回数を変化させた試料を用いて示した。1100℃で3時間のものが最良であった。6時間や12時間の熱処理を行うと、硫黄欠陥の電子スピン共鳴信号が3時間のものよりも減り、通常の発光強度は2倍に大きくなった。すなわち、一般的な意味での光材料の性能としては、6時間以上の熱処理によって良質の蛍光体になっている。しかしながら、蓄光材料としては発光強度が少し弱いものの方がよいということになる。さらに、粉末X線回折測定により回折線幅を評価すると、熱処理が3時間以上のものではいずれも同じ0.06度という十分に小さいものであった。X線回折線幅という一般的な手法では検出することのできない極微量かつ繊細なトラップ準位が、蓄光の起源となっていることを明瞭に示すことができた。蓄光の起源となる硫黄欠陥からの電子スピン共鳴信号について、蓄光を生じさせる青色光照射や、光刺激発光を生じさせる赤外光照射による変化を調べた。測定中に光照射が可能な試料ホルダを用いて実験したが、現在のところ電子スピン共鳴の信号の変化を検出することはできていない。磁場中におかれて電子スピン共鳴の信号を生じさせている蛍光体粉末試料の一部分のみにしか光照射が行われていない可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きエネルギー蓄積させるために照射する光の波長を変化させて、蓄光および光刺激発光の強度および継続時間を測定する。白色のキセノンランプを分光してえた500 nmの緑色光を、硫化カルシウム赤色蓄光蛍光体に照射して、蓄光および光刺激発光の緑色光強度依存を測定した。0.1 mW cm-1 からその1/100までという弱い励起強度の範囲で測定が可能であった。そしてこれを、350 nmから800 nmの範囲で変化させて実験を遂行する。キセノンランプを分光しているため励起光がさらに弱くなり、検出光学系にバンドパスフィルターを用いるなど、いっそうの工夫を付加する。そして、トラップ準位にエネルギーを蓄積させるために必要な光の波長を同定する。光励起された電子が、伝導帯を介してトラップ準位に遷移するのか、あるいは、直接に遷移するのかを同定する。また、蓄光に寄与するトラップ準位への遷移と、光刺激発光に寄与するトラップ準位への遷移が、同じなのか差異があるのか、それらの原因の物理的起源を議論する。 研究対象をこれまでの硫化物に限定せず、混晶や酸化物等での研究も行う。蓄光となりうる2価のユーロピウムに、マンガンやジスプロシウム等の追加のイオンでトラップ準位を増大させている。混晶作製によるバンドギャップエンジニアリングを用いて、トラップ準位の深さと、蓄光および光刺激発光との関係を議論する。また、バンドギャップの小さな硫化物の場合のトラップ準位の深さと、バンドギャップの大きな酸化物等での場合とを比較する。蓄光性能の良いものと光刺激発光の性能の良いものは両立するのか、あるいは、一方がよい場合には他方の性能は下がるのか、その条件および物理的起源について検討する。
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Research Products
(4 results)