2022 Fiscal Year Research-status Report
分子構造の秩序をもつケイ酸イオン種への骨芽細胞応答
Project/Area Number |
22K04711
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
中村 仁 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (30771513)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 骨修復医療 / 生体材料 / ケイ酸カルシウム / 医用無機イオン / 骨芽細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
セラミックスから溶け出た水溶性のケイ酸イオン種は、無機化合物でありながら骨芽細胞の遺伝子発現を活性化し骨の形成を促進する。従来の研究では、Bioglass45S5と呼ばれる特定組成のケイ酸塩ガラスからの溶出物について、濃度依存的な細胞応答が調べられてきた。一方で、ケイ酸イオン種は多様な分子構造を取りうるが、その分子構造を軸に骨芽細胞への寄与を検討した例は他に見ない。 本研究では規則的な分子構造を持つケイ酸イオン種の創出に向け、その鋳型となる化合物として層状ケイ酸カルシウム水和物(CSH)に注目した。CSHは、鎖状ケイ酸とカルシウム多面体からなる層状の骨格が積層した層状化合物である。CSHはシラン分子を出発原料に添加することで任意の量の有機官能基を導入できる。初年度は、種々の割合でプロピル基を導入したCSHを合成し、溶出したケイ酸の構造と細胞応答を解析した。 硝酸カルシウム、プロピルトリメトキシシランおよびケイ酸ナトリウムを原料として、水熱処理により微粒子状の試料を得た。これらの試料はCSH結晶と同様の層状骨格をもち、プロピル基で修飾された鎖状ケイ酸を含むことが分かった。緩衝溶液への浸漬により、これらの試料からはプロピル基で修飾された1~3量体のケイ酸イオン種が溶出することが分かった。さらに、試料中のプロピル基の含有量が多い試料ほど、水溶液中へ放出されたケイ酸イオン種のプロピル修飾量が高くなる傾向がみられた。 これらのケイ酸イオン種を含む培地中でマウス骨芽細胞様細胞を培養した際、培養14日目において、プロピル修飾量の少ない試料ほど、生細胞数が多くなる傾向がみられた。一方で、細胞の骨分化マーカーの発現量は、プロピル修飾量の高い試料ほど多くなる傾向を示した。以上の結果から、ケイ酸の構造は細胞応答に影響を及ぼすと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の予定であった規則的な分子構造の有機修飾ケイ酸を含む材料の合成手法を確立できた。さらに、一部の材料については溶出したイオン種の分子サイズや構造と細胞応答との相関についても知見が得られた。よって、当初の計画に従いおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度で確立した試料合成手法をもとに、炭素数が1~8程度の有機官能基を持つケイ酸カルシウム化合物を得る。さらに、化合物から溶け出るイオン種の分子サイズと組成を調べる。これにより、多様な有機修飾構造をもつ鎖状ケイ酸のイオン種を作り出す。得られたイオン種とともに骨芽細胞を培養し、イオン種の分子構造と細胞の増殖・骨分化挙動との相関について知見を得る。
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Causes of Carryover |
調達方法の工夫などにより、当初計画より経費の節約ができたため。
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