2022 Fiscal Year Research-status Report
新原理の中性子検出器で拓く大強度ビーム加速器施設の放射線安全
Project/Area Number |
22K04995
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
山崎 寛仁 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 放射線科学センター, 准教授 (90260413)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 高エネルギー大強度加速器 / 中性子検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、高エネルギー・大強度加速器を安全に運用するために必要な、これまで広く使用されてきた検出器とは異なる測定原理で中性子のエネルギースペクトルを測定する検出器を開発し性能評価を行うことで、高エネルギー・大強度放射線のエネルギー測定手法を確立することを目指してる。 高エネルギー・大強度加速器施設を安全に運用するためには、厚い遮へいを通過した後の中性子エネルギースペクトルを測定し、放射線の発生源に対する遮へいが想定通りに行われているかを検証することが必要である。大強度加速器に起因する放射線場を測定するためには、高線量場において正常に動作し、主な放射線成分であるガンマ線と中性子を精度良く弁別する能力が必要となる。中性子のエネルギー測定のためには、従来、液体シンチレータを用いた検出器や、ボナー球検出器の単色中性子に対する応答を用い、測定した検出器出力をアンフォールドする事で測定した中性子のエネルギースペクトルを求める手法が主に用いられてきた。 本研究では、測定システムとは動作原理が異なる、物質量の大きな無機結晶シンチレータを母材とする新しい中性子検出器を開発し、その性能を評価し、大強度陽子加速器施設にて実運用を行う研究である。 令和4年度は、試作する検出器に使用する無機結晶シンチレータの基本的な性能を評価し、宇宙線に含まれるミュオンなどを用いて検出器の応答を測定することを計画していたが、次に述べる理由によりそこまで到達できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度は、現在所有する CsI(Tl) 無機結晶を用い、結晶の周りと結晶内部に波長変換ファイバを配した上で、周りを薄いプラスチックシンチレータで囲った検出器を製作する予定であった。また、製作した検出器の基礎性能と、本研究の目的である試作検出器の動作原理の確認のために、CsI(Tl) 無機結晶内に電磁シャワーを形成することのないミュオンによる検出器の応答を測定し、入射した方向の異なるミュオンを発光領域の違いで識別できる事の実証を計画していた。具体的には、試作検出器とは別のトリガ検出器を用意することによって、宇宙線に含まれるミュオンの軌道を限定し、その方向の限られたミュオンを本試作検出器で測定する。本試作検出器は結晶中での発光領域が測定可能であり、入射ミュオンの方向を測定可能であることを想定していた。また、Cf-252, Am-Be 等の放射線源を利用し低エネルギー領域の中性子に対する応答を測定する事を計画していた。 試作する検出器に使用する現在保有しているCsI(Tl)無機結晶シンチレータの基本的な性能を評価するため、無機結晶からのシンチレーション光を検出する光電子増倍管、光電子増倍管に高圧バイアスを印加する高圧電源を購入した。現有のCsI(Tl)無機結晶1本のサイズは5cm x 5cm x 30cmであり、最終的な検出器を組み上げるためには9本から12本を使用する予定であるが、まずは結晶単体での性能を評価するために個々の結晶と光電子増倍管を光学グリスで接合し、Co-60規制免除密封微量線源を用いて低エネルギーガンマ線を測定する際のエネルギー分解能を評価した。 その結果、想定していたエネルギー分解能には到達しないことが判明した。結晶自身の損傷や、表面の劣化など複数の原因が考えられるため、原因の調査、改善方法の検討などを行っていたため、試作検出器本体の製作まで到達しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、CsI(Tl)無機結晶1本からなるテスト検出器について想定していたエネルギー分解能に到達しない理由を追求し、可能な限り改善を行う。CsI(Tl)無機結晶の持つ軽度な潮解性が原因で表面が劣化している場合は、表面の研磨やアルコールと純水の混合液による払拭などにより劣化した表層を修復し再度放射線源を用いたエネルギー分解能の測定を行い、改善の程度を評価する。分解能悪化の原因が結晶表面ではなく、CsI(Tl)無機結晶の内部にある場合には、エネルギー分解能の良い結晶と悪い結晶を識別し、最終的に試作検出器として組み上げた際に影響が小さくなる様な配置を、シミュレーションなどにより検討する。 それ以降については当初予定していた通り、無機結晶内で電磁シャワーを形成しない宇宙線に含まれるミュオンを利用した発光領域の認識方法の実証を行う。本研究で開発を行う検出器において、発光領域の大きさや形状は無機結晶シンチレータの内外に配置した波長変換ファイバの情報から推測することを計画していたが、エネルギー分解能が悪いことを検討するために行っているシミュレーションにおいて、多数本に分割したCsI(Tl)無機結晶の光量の分布から発光領域の測定を行う可能性が見出された。高エネルギー・大強度加速器施設の遮へいを評価するために必要な測定器としては、単純な構造であることが望ましいため、更にシミュレーションをすすめ、波長変換ファイバを使用しない無機結晶内発光領域の測定の可能性の検討を継続する。 その後はCf-252, Am-Be 等の放射線源を利用し低エネルギー領域の中性子に対する応答と、ガンマ線と中性子の弁別能の評価を行い、加速器からのビームを利用した単色中性子に対する応答の評価へと研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況、物価高騰などの影響もあり、使用計画を見直した。おおよそ見直した計画通りにすすんだが、わずかながら残額が生じた。
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