2023 Fiscal Year Research-status Report
量子井戸を用いたプラズモンーエキシトン結合場の制御と化学反応への応用
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22K05036
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥山 弘 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60312253)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邊 一也 京都大学, 理学研究科, 教授 (30300718)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / 量子井戸 / プラズモン |
Outline of Annual Research Achievements |
太陽光に含まれる光エネルギーを,発電や化学反応に最大限有効に利用する方法を開発するために,世界中の様々な分野で研究が進められている。光を金属中の局在プラズモンに変換し,その脱励起過程で生成する電子や光を用いて化学反応を誘起することで,光-化学エネルギー変換の実現が可能になる。本研究では2次元金属の量子井戸を利用する新しいプラズモン増強場を提案し,銀ナノ粒子を用いた反応収率増大の実証と,熱反応にはない高エネルギー,高次反応の達成を目的とした。 まずSi(111)にインジウム原子を蒸着することで形成される,インジウムの超薄膜についてその量子井戸状態を作製し,膜厚に対して原子層単位でエネルギーシフトを観測した。次に走査トンネル顕微鏡(STM)のAg探針を用いて,トンネル電子を量子井戸状態に遷移することで,トンネルギャップで増強されたプラズモン発光を観測し,そのエネルギー分布が量子井戸状態のエネルギーと相関すること,すなわち発光のエネルギーをインジウムの膜厚により制御できることを確認した(論文投稿中)。 プラズモン誘起の化学反応へ応用するため,キセノン光源を用いた反射率測定の装置を立ち上げた。グラフェン表面に銀を低温で蒸着することで,銀のクラスタを島状成長させてプラズモン-量子井戸結合場を用意した。ナノ粒子のプラズモン吸収についてチオフェノールなど分子吸着によって反射率の変化を観測できることを確認している。さらに反射率の変化からプラズモンと吸着分子の相互作用に関する情報を得て,化学反応の進行について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
装置改良として,STM発光の検出について外部の光学系を正確に構築することが重要であり,今年度はその調整法について再検討し,比較的簡便に光学系を最適化できる方法を確立できた。これを用いることでシリコン基板のような自由電子の少ない表面上でもプラズモン発光を有意に観測できることが明らかになり,インジウム薄膜からの発光検出を可能にした。マクロな系に対するプラズモン吸収観測については,キセノンランプを用いた吸収分光装置を立ち上げた。このように装置の立ち上げについては当初の予定通りに進んでいる。 立ち上げた装置を用いて,インジウム超薄膜に対してプラズモン発光を検出した。予想された通り超薄膜内に形成される量子井戸準位に起因したプラズモン発光が起こり,その波長や強度がインジウムの膜厚により制御できることを確認した。この成果はプラズモン発光を原子層単位で制御した初めての研究で論文を投稿中である。この超薄膜上にフラーレンやフタロシアニンなどの有機分子を吸着して化学反応を調べているが,吸着エネルギーが低いため安定な測定が達成されていない。従って発光誘起の化学反応の達成については 系の再検討が必要である。 一方,吸収分光を用いた研究については,銀ナノ粒子のプラズモン吸収の検出と分子吸着によるスペクトルの変化が観測され,プラズモン-分子相互作用に関する情報が得られるなど,順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
銀ナノ粒子の吸収分光から得られる共鳴波長の光を照射することで,化学反応の収率が熱反応と比較して増大するか確認する。具体的には一酸化窒素を表面に吸着して光照射後,同装置に設置されている振動分光装置を用いて反応を追跡する。STM発光に関しては,島状吸着が優先されるフッ素置換フタロシアニンを用いるなど,まず安定した吸着状態を実現する。その上で誘起反応の観測を進める。さらに誘電膜を組み合わせることにより,プラズモン励起の増大を試みる。
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Causes of Carryover |
予定していた光学系の装置の立ち上げが少し遅れたため、関係する消耗品の購入は翌年度に実験を進めながら必要に応じて行う予定である。
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Research Products
(10 results)