2022 Fiscal Year Research-status Report
Crystal chemistry of phmtoluminscent multi-metal complexes based on their elastic molecular frameworks under extreme pressure conditions
Project/Area Number |
22K05147
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
小澤 芳樹 兵庫県立大学, 理学研究科, 准教授 (40204200)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 高圧結晶化学 / 多核金属錯体 / 貨幣金属 / フォトルミネッセンス / ピエゾクロミズム / 粉末X線構造解析 / ダイヤモンドアンビルセル / 大型軌道放射光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、複数の金属イオン同士が直接相互作用を持たない状態で配置されたしなやかな骨格を有する、発光性金属多核錯体結晶において、数万気圧の静水圧下の金属コアの変形と光吸収-発光の変化および電子状態との相関の解明を目的とした。 d10電子配置を持つ貨幣金属(Cu, Ag, Cu)1価イオンをアニオン性配位子で架橋することで複数集積させた、フォトルミネッセンスを示す中性多核金属錯体を合成し、その結晶状態での発光色の圧力依存性について、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用い、高圧下での大型軌道放射光X線回折実験により、圧力による分子構造の変化の検出に成功した。 特に二つの光励起状態からの輻射失活により二色の発光が同時に起こるユニークな性質を示すハロゲン架橋銅(I)四核錯体について、二色の発光強度比が圧力依存により変化する二重発光ピエゾクロミズム現象を初めて見出し、その結晶構造の圧力変化を明らかにした。二つの光励起状態間のエネルギー移動とその圧力依存性を解明することで、これまで研究例がない仕組みで分子の構造変形が発光色変化を誘起する、超高圧下での結晶構造化学の開拓し、二色の発光強度の変化により大きく色が変わる固体材料は圧力センサーなどの応用研究に発展が期待される。 結晶格子中に大きな空隙 (void) が存在する、発光性四核金属錯体結晶の作製に成功した。空隙にはエーテルなどの有機小分子を取り込むことが可能で、包接分子の沸点を大幅に超える温度、結晶から脱離し、脱離後の結晶構造がそのまま保たれるなど、まるで多孔性配位高分子(MOF)結晶の ような振る舞いをする多孔性分子性結晶(Porous Molecular Crystal)を見出した。さらに溶媒分子の有無によりこれら結晶の発光の圧力依存性が異なることを初めて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点で、以下の3つの化合物群について、約6 GPaまでの発光の圧力依存性と、錯体分子の自体の変形を含む高圧下での結晶構造の変化について構造解析に成功した。 1.二重発光性を持つキュバン型ハロゲン化銅(I)四核錯体結晶について、静水圧印加に伴い発光色が青色から橙色まで幅広変化し、その要因が2つの発光極大の相対強度の圧力変化によることを明らかにした。二重発光性物質のピエゾクロミズム現象はこれまで報告例が極めて少ない現象である。 2.結晶格子に空隙をもつ発光性キュバン型ハロゲン化銀(I)四核錯体について、空隙に有機小分子を結晶溶媒として取り込むことにより、発光挙動と分子変形の圧力依存性が大きく変わる、珍しい例を見出した。 3.二座架橋配位子を用いた新規金(I)四核錯体を合成し、2つの多形結晶の構造解析を行なった。金錯体ではこれまで報告例のない二重発光性を示し、その温度圧力依存性が多形結晶により大きく異なることを見出した。 いずれの研究成果について、すでに関連の専門学会で口頭発表を行っており、現在論文を準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、結晶状態での固体のフォトルミネッセンスと分子構造の圧力依存性の相関について研究してきたが、最近、結晶をすりつぶすなどして得られるアモルファス(非晶質)状態の固体について、発光挙動の圧力依存性が結晶状態と大きく異なる物質がいくつか見つかってきた。アモルファス固体の構造評価にはX線構造回折実験手法が適用できないので、他のX線散乱、分光法を用いることでアモルファス中の錯体分子構造の圧力依存性について解明すべく新たな研究方針を検討中である。 また、準静水圧を発生するための圧力伝達媒体の種類に依存して分子性結晶の圧力応答性が異なる現象が見つかっており、対象化合物固体と媒体との相互作用について検討を行っている。すでに化合物との化学反応の恐れがほとんどないヘリウムガスを圧力伝達媒体とする実験を計画している。 高圧粉末X線結晶構造解析について、単純な無機化合物とは異なり分子自体が大きく変形する結晶構造の精密化計算に最適化されたソフトウエアがなく、解析手法が完全には確立がされていないので、結晶構造精密化計算に予想以上の時間がかかっている。これまで構造解析が容易な、対称性が高い結晶系を選んできたが、今後より対称性の低い新規化合物の高圧構造の計算についてスケジュール通りに進捗できるように、粉末X線構造解析の専門家の助言を得るなどして問題の解決を図る方針である。 分子構造の変形と発光エネルギーの相関について、錯体の電子状態の圧力依存性とその発光挙動への定量的な相関関係についての解明を今後進める必要があり、DFT計算手法を用いて分子変形による電子状態の変化について詳細に検討を進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症への対応の影響で対面での学術会議が一部中止になったことと、購入予定の物品の納期が年度内に間に合わなかったため、次年度使用額が生じた。 繰越額が当該年度所要額に占める割合1割以下であり次年度の使用計画については、特に変更は生じないと考えている。
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