2022 Fiscal Year Research-status Report
Induction and Control of Photophysical Properties by Asymmetric Crystal Structures
Project/Area Number |
22K05254
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
松本 有正 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (20633407)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | キラリティー / 結晶多形 / 円二色性 / 円偏光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は有機結晶のアキラル化合物のキラル結晶や,結晶多形の発現を制御し,キラル結晶が持つ円偏光特性や,極性結晶が持つ圧電効果といった,分子単一では存在しない,結晶が持つ対称性に基づく物性をコントロールする事を目指すものである。アキラルな分子がキラル結晶化によって発現するキラル物性は,従来のキラルな分子が持つキラル物性とは異なり,結晶構造,配列の変化によってそのキラル物性を可逆に変化させることが可能である。本研究はアキラルな化合物がもつ結晶のキラリティーを制御することで円偏光特性といったキラルな物性が可変な新たな有機材料を創出を目指し ①「アキラル化合物の結晶多形相転移による結晶キラリティーの発現」②「光異性化分子の結晶への円偏光照射による結晶キラリティー制御」および③「極性空間群が持つ圧電効果を利用した応力発光」 といった結晶の対称性がもつ特性についての研究を行うものである。 初年度の研究においては,事前の検討から有望な結果が既に得られていた②の円偏光照射による結晶キラリティー制御に関する研究について重点的に行い。円偏光の照射により,照射した光の偏光方向に依存したキラル物性を可逆に記録可能な結晶材料の作成に成功した。円偏光によるキラル物性のコントロールはこれまでに液晶やMOFといった超分子構造での例が知られているが,単純な固体有機材料での例はあまり報告がなく,新たな機能性色素材料としての応用が期待できる。これらの研究成果は次年度javascript:onTransientSave();に行われる国際学会での発表を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの検討により,光照射による結晶キラリティーのコントロールとして,種々のアキラルあるいはラセミのアゾベンゼン誘導体結晶に円偏光を照射したところ,照射した円偏光の偏光方向に依存して,キラルな光学特性である円二色性が発現することが観察された。本研究によりさらに光の照射方法やサンプルの調整方法など繰り返し検討を行い,この現象の繰り返しの再現性が確認でき,照射光強度や時間によるある程度の定量性を持ち,光によるキラル物性のスイッチングとして利用できることが確認された。またアゾベンゼン部位の置換基の変更により照射する円偏光により誘起される円二色性に大きな差が現れることが分かり,結晶構造のパッキングや分子間相互作用がこの現象に大きな影響をもつことが判明した。様々な置換基の検討の結果,結晶材料としては大きな円二色性を発現が確認できた分子も見出しており,円偏光照射で可逆にキラル物性をコントロールできる新たな機能性材料への応用として期待できる結果が得られた。さらにこの現象の発現メカニズムとして,研究当初はアゾベンゼンの光異性化による分子コンフォメーションのねじれに円偏光による偏りが発生していると予想していたが,X線回折による結晶構造の変化や表面観察の分析の結果,結晶全体の変化によりむしろ光による結晶表面の微少な変形現象が関与していることが示唆された。 その他の結晶多形制御,キラル極性結晶化に関する研究については,結晶化の再現性が課題となっており,次年度以降重点的に取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
先にも述べたように円偏光照射によるアゾベンゼン誘導体へのキラリティー誘起については,期待通りの研究成果が得られており,初期の基礎研究としては順調に達成の目処が立っている。光によるキラリティー制御に関しては応用上も興味深い現象であるため,年度以降も引き続き光によるキラリティー誘導の適用範囲の拡大について検討は行っていくが,今後はより困難な結晶多形の制御など,他のより困難な課題について中心に取り組んでいく。 特に,結晶キラリティーの相転移による制御に関しては,他の結晶で類似の現象の発見が困難となっている。まず現在,結晶相転移が明らかになっている化合物について,再現性の検討を行い,現象の理解をより深める。 また極性結晶による応力発光に関する研究についても,一部の分子で発光現象が確認できているが,現在のところ他の分子について結晶多形のコントロールや再現性が課題となっており,その基質の一般性が限られてしまう点が問題となっている。他の結晶相転移の研究や光によるコントロールの研究課題と同様に,結晶構造や結晶多形のコントロールが共通する重要な課題となっている。有機分子の結晶構造予測は現在でも困難な研究テーマの一つであるが,結晶データベースの活用や理論計算による結晶構造予測などの手法を取り入れて,結晶構造の制御,予測の精度向上に貢献できるデータの蓄積を行っていく。また単一分子での機能発現にこだわらず,圧電効果を持つ極性結晶への発光分子の取り込みなど,より柔軟に検討対象を広げていく。
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Research Products
(1 results)