2022 Fiscal Year Research-status Report
パンコムギのアレルゲンとなるグルテンタンパク質を包括的に制御する転写因子の同定
Project/Area Number |
22K05574
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
川浦 香奈子 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 准教授 (60381935)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | パンコムギ / ゲノム編集 / グルテン / 転写因子 / 小麦アレルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
小麦アレルギーの原因となるタンパク質はさまざまなものが報告されており、その中に小麦粉のグルテンの構成成分である種子貯蔵タンパク質が含まれる。コムギにおいてゲノム編集技術が使えるようになり、任意の遺伝子のノックアウトが可能となったが、種子貯蔵タンパク質は多重遺伝子にコードされているため、個別に遺伝子をノックアウトするのは現実的ではない。そこで、これらの多重遺伝子の発現を制御する転写因子を同定し、転写因子をゲノム編集技術によりノックアウトすることで、種子貯蔵タンパク質遺伝子を包括的に制御することを目的とした。これにより、アレルゲンとなる種子貯蔵タンパク質遺伝子の発現を制御した低アレルゲン小麦の作出が可能であると考えられる。また、コムギにおいて高効率に変異導入ができるゲノム編集技術の確立を副次的な目的とした。 コムギ品種Fielderを用いて転写因子の候補であるSPA、SHPについて、六倍体のパンコムギにおける3種の同祖遺伝子を標的としてCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集を行った。Cas9とgRNAを発現するプラスミドベクターをパーティクルデリバリーシステムでコムギ未熟胚に導入する手法で実験を進めた。SPAを標的としたゲノム編集では、AゲノムおよびDゲノムのSPAではバイアレリックに、BゲノムのSPAではヘテロに変異が導入された遺伝子型aaBbddである系統が得られた。この個体における次世代の植物体を得ることで、SPAの3種類の同祖遺伝子すべてが変異した系統の形質評価が可能となった。一方で、SHPについては、標的配列の選定や培養条件の検討を行ったが、変異体を得ることはできなかった。SPAについても変異体は得られたものの変異導入効率は低いため、パンコムギにおけるゲノム編集の効率を上げるさらなる条件検討が必要であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、コムギにおける種子貯蔵タンパク質遺伝子を制御する転写因子を同定し、高効率化したゲノム編集技術によりアレルギーの原因となるタンパク質の蓄積を抑制した系統を作出することを目的とし、(1)コムギの転写因子の評価およびこれらを変異させたゲノム編集系統の作出、(2)コムギにおけるゲノム編集法の高効率化、(3)ゲノム編集による変異系統の評価、を計画した。(1)の転写因子の評価が概ね進行し、選んだ転写因子の中の1つにおいてゲノム編集系統が得られていること、(2)のゲノム編集法の高効率化が確立しつつあることから、概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、選出した転写因子SPAおよびSHPをノックアウトしたパンコムギ系統の作出に注力する。そのため、CRISPR/Cas9の発現ベクターやゲノム編集の標的配列の選出法、ゲノム編集のコンストラクトを導入した後の培養条件など、ゲノム編集の高効率化を目指す。それぞれの転写因子において、3種の同祖遺伝子が変異した複数の系統を早期に得て形質の評価を行い、転写因子の制御する種子貯蔵タンパク質の解明を目指す。
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Causes of Carryover |
購入予定であったワークステーションの購入を見送ったことと試薬を低額に抑えることができたことから、物品費が少なくなった。また、国際会議がオンライン開催となったため、旅費の使用が無かった。今後、ゲノム編集の高効率化やゲノム編集系統の評価にかかる消耗品費や委託費に仕様する予定である。
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