2023 Fiscal Year Research-status Report
イネ白葉枯病菌hrp遺伝子群の感染時特異的発現を可能にする環境シグナル応答経路
Project/Area Number |
22K05657
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
津下 誠治 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (10254319)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イネ白葉枯病菌 / hrp遺伝子 / 二成分制御系 / cyclic-di-GMP |
Outline of Annual Research Achievements |
イネ白葉枯病菌は熱帯アジアを中心に世界の稲作地帯で甚大な被害をもたらす重要病原細菌である。本細菌がイネに侵入・増殖し、病原力を発揮するためには、type Ⅲ分泌装置を介して、宿主防御応答を抑制するタンパク質を直接イネ細胞内に分泌することが必須である。本研究では本装置の構築に関わるhrp遺伝子群の感染時特異的な発現を可能にする機構の解明を目的とし、とくに環境シグナルの受容機構である二成分制御系、およびセカンドメッセンジャー cyclic-di-GMPを環境に応じて合成/分解することでそのシグナル伝達に関わる因子に着目した。 hrp制御遺伝子の1つであるhrpGの発現制御に関わる二成分制御系のセンサータンパク質Aを見出した。しかし、同二成分制御系のレスポンスレギュレーターと推測されるタンパク質BにhrpGの発現制御への関与は認められず、かわりにストレス耐性への関与が認められた。本結果は未知のレスポンスレギュレーターCを加えたA、B、Cが三成分制御系を形成しており、何らかのシグナルを受容したAはBを介して細菌のストレス耐性に寄与するとともに、Cを介してhrp遺伝子群の発現制御にも関与する可能性を示している。 cyclic-di-GMPはその結合と解離によってグローバル転写制御タンパク質Clpの活性を制御する。Clpは、2つのhrp制御タンパク質、HrpGとHrpXの前者の発現を負に制御すると同時に後者の発現は正に制御すること、およびそれらをコードする遺伝子の上流には、両者ともに少なくとも2か所、Clpにより制御を受ける配列が存在することがわかった。 白葉枯病菌のもつ25個のcyclic-di-GMP合成/分解因子の中から、HrpXの発現制御に関わるcyclic-di-GMP合成/分解因子の1つを同定するとともに、Clpによる hrpGの発現抑制を介在するタンパク質の同定に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題では、イネ白葉枯病菌における感染時特異的なhrp遺伝子群の発現を可能にする機構の解明を目指しており、とくに外部環境のシグナルを受容して同遺伝子群の発現を誘導する、あるいは逆に抑制する二成分制御系およびcyclic-di-GMP合成/分解因子の解明に焦点をあてている。上記のように、これまでにそれらのいくつかの新規因子を見出すことができた一方、予想に反して複数の二成分制御系およびcyclic-di-GMP合成/分解因子がhrp遺伝子群の発現制御に関わっていることも示されてきており、それらの多くは未だ未同定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で見出した二成分制御系のセンサータンパク質Aに対応するレスポンスレギュレーターCの同定を見出すとともに、それらによるhrp遺伝子群の発現制御機構の解明を目指す。またそれと同時に、Aに対応するレスポンスレギュレーターと推定されるにもかかわらず、hrp遺伝子群の発現制御には関わらず、ストレス耐性に関わるタンパク質Bを含めた3者の相互作用と、それらが認識する環境シグナルの同定に取り組みたいと考えている。 また、グローバル転写制御因子Clpは、hrp遺伝子群の発現制御系の複数の箇所に作用していることを明らかにした。このことは、Clpの活性化/不活性化を担うcyclic-di-GMPの合成/分解に関わる複数の因子が、それぞれ異なる環境刺激に応じてhrp遺伝子群の発現制御に関わっていることを示唆している。白葉枯病菌のもつ25個のcyclic-di-GMPの合成/分解因子のそれぞれを欠損させた変異株をすでに構築していることから、いずれの因子がhrp遺伝子群の発現制御に関わる因子を同定し、その制御機構および、それらが認識する環境刺激を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
研究に若干の遅れが生じ、当該年度に予定していた論文の作成・投稿ができなかったため、その英文校正費用、および投稿料が生じなかった。当該助成金は次年度作成・投稿する論文に係る費用に使用する予定である。
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