2023 Fiscal Year Research-status Report
森林に自生するヤマノイモはウイルス感染に苦しむのか?
Project/Area Number |
22K05754
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
井上 みずき 日本大学, 文理学部, 准教授 (80432342)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | クローナル植物 / 病原体=赤の女王仮説 / 植物ウイルス / 開空度 |
Outline of Annual Research Achievements |
ウイルスは植物にとって、感染によって生理的変化をもたらし、時に大量死を引き起こす重要な存在であり、農業上だけではなく生態系にも多大な影響を及ぼす可能性がある。本研究では、野生個体群のウイルス感染率の違いとそれに影響を及ぼす可能性のある遺伝的要因、環境要因との関係について明らかにした。一般に遺伝的多様性を失った個体群ではウイルス感染しやすいと考えられる。また、光・土壌環境が好条件の時、ウイルスの感染しやすさが上がる事象が報告されている。 ヤマノイモは野山や河川沿いに広く見られ、JYMV(ヤマノイモモザイクウイルス)に感染する。種子による有性繁殖とむかごおよび担根体による無性繁殖を行うため、集団によりヤマノイモの遺伝的多様性が異なる可能性がある。また、地域よって生育環境も異なる。 各地域のヤマノイモ個体群に対して葉の採取を行った。採取時に葉のモザイク模様の有無を目視で観察し、病徴の有無を記録した。採取した葉はRNA抽出し、逆転写PCR法によりJYMVの判定を行った。同様にDNA 抽出し、SSR 分析を行い、遺伝的多様性指数を求めた。各地域で環境(開空度、土壌の可給態リン酸濃度、pH、電気伝導率、全炭素量、全窒素量、C/N比)測定を行った。 地域ごとの個体群の病徴率(目視によるモザイク症状の有無からウイルス判定)は41.7~75.0%であり、JYMV感染率(逆転写PCR法によるJYMV判定)は10.4~91.7%であり、病徴率・感染率ともに地域による差が見られた。病徴率とJYMV感染率の差から、ヤマノイモには無病徴のJYMV感染個体が多数含まれることも明らかとなった。ヤマノイモのJYMV感染率には光と窒素量が関係していたことから、JYMV感染率の個体群間変異は遺伝的な要因よりもむしろ環境要因が効いている可能性がでてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
野外での調査や解析はおおむね順調に進行しているが、栽培ヤマノイモのウイルス接種を2回ほど試したがなかなか成功していない。 その理由としては、カタログスペックでは問題なかったが、人工気象機のLED光源が若干、従来品より光量が少なく、ムカゴが発芽しにくいことが理由としてあげられる。そのため、ウイルス接種のための実生の育成が遅れたことも研究の遅延につながっているが、これについては、2023年度内に改善方法を思いついたため、今後は問題ないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は室内でヤマノイモを栽培し、ウイルス接種をさせ、任意にウイルス感染ヤマノイモ個体を作る必要がある。そのためにウイルス懸濁液の調整や接種回数、接種方法など接種の実験条件を詰めていく必要がある。 また、ヤマノイモの遺伝的多様性だけではなく、ウイルスの遺伝的多様性も測定することで、病原体=赤の女王仮説を確かめられると考えられるため、現在、ウイルスのシーケンスも行い始めた。今後はこれも推進していく。
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Causes of Carryover |
ウイルス接種実験がうまくいった場合に行うはずだったRTPCRの試薬代および栽培実験の拡大に伴う予算が、ウイルス接種実験の失敗により使われなかったため。 2024年度はムカゴの発芽にかかわる条件を2023年度に設定できたため、随時ムカゴを発芽させ、栽培実験を大規模に行う予定であるため、栽培したヤマノイモを用いてウイルス接種をするための試薬とウイルス感染が起きたかどうかを確かめるためのRTPCR試薬代として使用される予定である。
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Research Products
(1 results)