2023 Fiscal Year Research-status Report
温暖化に伴う植食性魚類の分布域拡大メカニズムの解明:食性と餌料環境の重要性
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22K05783
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
中村 洋平 高知大学, 教育研究部総合科学系黒潮圏科学部門, 教授 (60530483)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 分布拡大 / 温暖化 / 魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の海洋の温暖化に伴い、熱帯性魚類が温帯域に分布域を拡大していることが報告されている。しかしながら、この分布域拡大の成否に食性や餌料環境がどのように関わっているのかはよくわかっていない。本研究では、熱帯性藻類食魚ナガニザを対象に、分布適域である沖縄県と分布縁辺域である高知県での個体数、体長分布、摂餌量、食性、餌料環境を調べて比較することで、上記不明点を明らかにすることを目的とした。 調査は、2023年の夏と冬に高知県2地点と沖縄県2地点で行った。本種の体長分布と生息環境をベルトトランセクト法を用いた潜水観察で調べた。本種の摂餌回数の季節変化を明らかにするために、摂餌中の本種を3分間以上ビデオ撮影した。各調査地で本種稚魚を採取して肥満度と胃内容物組成を調べた。さらに、本種の餌となる付着藻類群落を各調査地の夏と冬に定量採取して、各餌に含まれる粗タンパク質量と粗脂質量を比較した。2022年の調査結果と併せて解析した。 沖縄県では稚魚と成魚が確認されたが、高知県では全長12㎝以下の稚魚のみが確認された。摂餌回数はどの調査地でも夏より冬に減少したが、高知県2地点での減少が顕著であった。沖縄県と高知県の本種稚魚の肥満度と食性(主に紅藻類)に大きな違いは認められなかった。また、餌料の湿重量と粗タンパク質・粗脂質の量は、どちらの季節でも沖縄県よりも高知県の方が多かった。温帯域には本種の必要とする餌が豊富にある事や冬に摂餌活動が大幅に低下することが確認された事で、本種の温帯域への越冬・定着を制限している要因は、食性や餌料環境ではなく冬季の低水温に対する耐性であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象魚種のうち1種については当初予定していたほぼすべての調査と実験を行うことができた。それとともに、他の魚種でも同様の調査を始めていることから、おおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ナガニザに加えて他の植食性魚類でも同様の調査を行う。また、魚類の摂食活動と水温との関係を水槽実験で調べる予定である。
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Causes of Carryover |
研究対象種を増やすことで、次年度の出張調査・実験などの費用が必要になったため。
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