2022 Fiscal Year Research-status Report
コール酸フリー呼吸鎖複合体Ⅳ標品による進化で獲得した核由来サブユニットの機能解明
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22K06130
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
伊藤 恭子 (新澤恭子) 兵庫県立大学, 理学研究科, 特任教授 (70206316)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅳ / 核遺伝子由来サブユニット / コール酸 / 膜タンパク質複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
呼吸鎖末端酸化酵素である複合体Ⅳは、酸素を水に還元すると共にプロトンを能動輸送する。最も進化した哺乳類酵素は、高度に保存された活性中心を含むミトコンドリアDNA由来の3つのコアサブユニットの周りを進化の過程で獲得した核DNA由来の10個の異なるサブユニットが取り囲んでいる。なぜ進化の過程で10種類ものサブユニットが付加されたのか?それらは、細胞環境に適応して複合体Ⅳによる呼吸活性制御にどのように影響を与えているのか?は基礎研究から医学的研究まで幅広い分野で興味がもたれる研究課題である。 ウシ心筋複合体Ⅳの反応機構解明は、既に1.3Å分解能の構造情報を基に行われているが、核DNA由来サブユニットの機能は、解明されていない。その原因は、これまでの構造及び機能解明ではコール酸を用いて酵素を調製したため、酵素当たり10分子程度残存したコール酸が核DNA由来サブユニットと結合し、酵素機能を部分的に阻害すると共に生理活性物質等の結合を妨げていることによる。 本研究では、コール酸を全く用いないで、活性が高く結晶化が可能な標品を収率よく得る精製法の改良を常に行っている。本酵素を用いた電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析では、2.5Å分解能の構造を得るまでに至った。電顕用の試料調製の方法の改良により更なる分解能の向上を目指している。更に各種生理活性物質や、調節因子、薬剤との共構造を得るための条件検討を進めているが、残念ながら現段階では共構造は得られていない。 高分解能構造の決定においてはX線結晶構造解析が優位である。そのため、結晶化条件を主にハンギングドロップ法により検討を進めている。角柱状の結晶を得ることはできているが、結晶構造を得るまでには至っていない。この3次元結晶化法の確立ができれば、リン酸化部位の検証や、制御因子のうち小分子であればソーキング法により導入可能となると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を遂行するためには、生理活性物質や薬剤等の核DNA由来サブユニットへの結合が妨げられていない、コール酸を用いない新規精製法で、結晶化可能なレベルの標品調製が必須である。コール酸を用いる調製法では、ミトコンドリア膜の調製は、低張下で細胞を破砕後、遠心分離により核及び未破砕細胞を取り除いた上清のpHを5.15まで下げてミトコンドリア内膜小胞を凝集させて低い遠心力で集めるという大量調製が容易な方法で行っていた。しかし、低いpHにさらすと、数種の核DNA由来サブユニットの末端が切断される事が判明した。そのため、ミトコンドリア内膜小胞の調製法の改良を行った。改良法で調製された内膜小胞からの複合体Ⅳの可溶化、及び精製に用いる界面活性剤の選択、及び精製手段の詳細な検討を行った。その結果、高い活性を示す標品を、再現性良くまた収率よくウシ心筋から調製する方法を確立した。 得られた標品を更に両親媒性高分子であるAmphipol へと置換することにより電顕による単粒子構造解析が可能となり、これまでに2.5Å分解能の構造を得るまでに至った。しかし、このAmpipolにより置換する方法を様々な生理活性物質や、薬剤との共構造を得るために適用しても結合型構造は現在得られていない。これは、用いられた薬剤の多くが疎水的性質をもつため、Amphipol内へと取り込まれる可能性があると考えている。 X線結晶構造解析のための結晶化条件を、主にハンギングドロップ法により、本酵素の結晶化に適した界面活性剤の選択や各種条件の検討を進めてきている。これまでに角柱状の結晶を得ることはできている。酵素はダイマー構造の得られた結晶の場合とほぼ同じ格子定数を持つと考えられることから、コール酸によって無理やりダイマーを形成したがためにどうしても片方の酵素に揺らぎが出ていたことが解消される可能性もあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
コール酸を用いない新規精製法で調製された酵素をAmphipolで安定化させた場合には、2.5Å分解能の構造を得るまでに至ったが、生理活性物質や、薬剤との共構造は現在得られていない。これはAmphipol中へとそれらの薬剤が移行してしまう可能性が考えられる。Amphipolを用いるとバックグラウンドが下げられるという利点があって用いてきたが、本年度は比較的CMCの低い界面活性剤を用いて安定化させた酵素を用いて結合型酵素構造を解明することを目指す。 X線結晶構造解析のための結晶化条件を、主にハンギングドロップ法により、本酵素の結晶化に適した界面活性剤の選択や各種条件の検討を進めてきており角柱状の結晶を得るまでには至っているが、構造解明には至っていない。これまで高分解能構造解析に用いてきた結晶は少なくとも一辺が0.4㎜以上のものを用いてきたことから、より結晶を成長させる方法を考案していく必要がある。核形成の頻度をコントロールするなどの対策を考えていく。 組織特異的サブユニットアイソフォームの種類によって酵素活性や、制御タンパク質の結合解離が異なることが報告されている。心臓タイプと肝臓タイプのアイソフォームの構造解明とその比較を行うために、肝臓酵素の精製法の確立をまず目指す。精製ができたら、Amphipol で安定化された状態での心臓酵素と肝臓酵素の比較を行う。 複合体Ⅳ分子の多くのアミノ酸が翻訳後修飾によりリン酸化され、そのリン酸化はATPの作用、制御タンパク質の結合解離に影響していることが報告されている。しかし、これまでの我々が行ってきた高分解能構造の中にはリン酸化アミノ酸は確認されていない。これは精製過程で脱リン酸化されている可能性を示していることから、脱リン酸化阻害剤存在下での精製、結晶化を行い、構造を決定する。
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[Journal Article] Theoretical Model of the Far-Red-Light-Adapted Photosystem I Reaction Center of Cyanobacterium Acaryochloris marina Using Chlorophyll d and the Effect of Chlorophyll Exchange.2022
Author(s)
Kimura A, Kitoh-Nishioka H, Aota T, Hamaguchi T, Yonekura K, Kawakami K, Shinzawa-Itoh K, Inoue-Kashino N, Ifuku K, Yamashita E, Kashino Y, Itoh S.
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Journal Title
J Phys Chem B.
Volume: 126
Pages: 4009-4021
DOI
Peer Reviewed