2022 Fiscal Year Research-status Report
極限環境光合成微生物における3重耐性化と近赤外光利用の分子戦略
Project/Area Number |
22K06144
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
木村 行宏 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (20321755)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 極限環境微生物 / 3重耐性 / 近赤外光 / Hlr. halochloris |
Outline of Annual Research Achievements |
紅色光合成細菌は近赤外光を光電変換する光捕集・電荷分離システム(光捕集1反応中心複合体:LH1-RC)を備えており、低いエネルギーを高いエネルギーに変換するuphill型エネルギー移動により近赤外光をエネルギー源とした光ー物質変換を営んでいる。本研究では、極限環境光合成微生物Hlr. halochlorisの3重耐性(耐熱性、耐塩性、耐アルカリ性)および近赤外光利用の分子機構を明らかにするため、BChl bを集光色素とする紅色光合成細菌(Hlr. halochloris、Hlr. abdelmalekii, Blc. tepida, Blc. viridis)を比較対象として、物理化学的手法による解析ならびにCryoEMによる構造解析を組み合わせ、Hlr. halochlorisの耐熱化、耐塩化、耐アルカリ化、低エネルギー吸収特性の詳細な分子機構を明らかにすることを目的としている。具体的には、①可視近赤外分光法および示差走査熱量分析法による3重耐性の検証、②灌流誘起ATR-FTIR分光法による塩濃度およびpH依存的LH1-RC構造変化の検出、③等温滴定熱量分析(ITC)による塩濃度およびpH依存的LH1-RC相互作用変化の解析、④Cryo-EM構造解析による塩濃度およびpH依存的LH1-RC構造の解明の4つのサブテーマを遂行している。 今年度は①の可視近赤外分光法による3重耐性の検証を中心的に行い、LH1-RC内部および周辺の静電荷によって3重耐性が制御されているメカニズムを提唱した。これらの成果は学術雑誌2報(The Journal of Physical Chemistry BおよびMicroorganisms)に掲載された。②では、塩濃度およびpH変化によるLH1-RCの微小な構造変化の検出にまでは至っておらず、引き続き条件検討を続けている。③については試料の大量調製およびマシンタイム確保の問題があり、次年度以降に集中的に進める予定である。④については現在、共同研究先と解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はHlr. halochlorisおよびHlr. abdelmalekii由来LH1-RCを単離し、LH1-RCの熱耐性におけるpHおよび塩濃度の効果を詳細に検討した。低pHおよび低塩濃度において著しくLH1-RCの安定性が低下、高pHおよび高塩濃度において安定性が向上することを見出した。他の紅色細菌と比較すると、Halorhodospira属はLH1-RCタンパク質膜表面部位における親水性残基の割合が高いこと、アニオンの効果が水の構造安定性を示すホフマイスター系列と一致する傾向にあること、タンパク質の構造安定性に水和結合水の存在が重要であることから、Halorhodospira LH1-RC膜表面部位の極性残基に強く結合した水分子がウォーターシールドを形成し、LH1-RCの耐久性を向上させているメカニズムを提唱し(掲載論文参照)、上記①の主目的を達成した。また、②から④に関しても、試行錯誤を重ねながらではあるが、少しずつ進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
Hlr. halochlorisおよびHlr. abdelmarekiiについては①の示差走査熱量分析法を進めていく。また、②の灌流誘起ATR-FTIR分光法による分析では、塩濃度およびpH依存的に変化するLH1-RC構造変化を検出するための条件検索を、③では大量培養およびITCのマシンタイム確保により、塩濃度およびpH依存的LH1-RC相互作用変化の解析に取り組む。④のCryo-EM構造解析については共同研究者と引き続き綿密な議論を継続しながら研究を進展させる予定である。 現在、Halorhodospira属について優先的に実験を進めているが、これらが終了し次第、Blastochloris属についても実施する予定である。
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