2022 Fiscal Year Research-status Report
真核型mRNAのモノシストロニック性の定説を覆すヒトのダーク・プロテオームの発掘
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22K06188
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
野村 勇太 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (90745283)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | プロテオゲノミクス / ダークプロテオーム / オーバーラップ遺伝子 / 翻訳制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、研究代表者らの先行研究をさらに前進させ、ヒトゲノムのアノテーション精度の飛躍的な向上を推進するものである。特に、これまで見出されていなかったヒト由来の新しいタンパク質群 (ダークプロテオーム) をより網羅的に明らかとし、かつ、ヒトを含む真核生物にて長年提唱されてきたmRNAのモノシストロン性の定説を覆すことを目的とする。本目的達成のため、まず、ヒト由来細胞株のRNA-Seq解析にて取得されたトランスクリプトームデータを新たにアセンブリ・再解析し、ダークプロテオームをコードすると予測されるORF群をより網羅的に抽出しORFeomeデータとした。これをin silico翻訳しアミノ酸配列データベースを構築した。これを参照したヒト由来細胞株のプロテオームデータ再解析 (データ駆動型プロテオゲノミクス解析) により、ダークプロテオーム探索を進めたところ、多数のダークプロテオームを見出すことができた。さらなるダークプロテオームの予測と確定実験によって、さらに網羅性を高める必要性があるものの、現時点で、扱ったヒト細胞株の由来や特徴に即し、かつ、共通性も窺える遺伝子群を多数見出すことができた。また、これらダークプロテオームをコードする新規遺伝子群から特徴的なモデル遺伝子として選出した3遺伝子に関して、同新規遺伝子とともに同じmRNA上に見出される既知遺伝子の塩基配列を含めた人工合成DNAを入手し、無細胞翻訳して、翻訳過程における両遺伝子の関係性について検証を行った。その結果、これら新規遺伝子の翻訳開始コドン変異時には、同じmRNA上に見出される既知遺伝子の翻訳量が増大することが分かった。以上の通り、複数のダークプロテオームを新たに見出し、これらダークプロテオームコード性の新規遺伝子の存在によって、共存する既知タンパク質遺伝子の過剰発現を抑制できている可能性を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト由来細胞株のORFeomeデータベース、ならびに、これをin silico翻訳したアミノ酸配列データベースを構築した。これを参照したヒト由来細胞株のプロテオームデータの再解析 (データ駆動型プロテオゲノミクス解析) により、ダークプロテオーム探索を進めたところ、多数のダークプロテオームを見出すことができた。「今後の研究の推進方策」に示すとおり、さらなるダークプロテオームの予測と確定実験によって、さらに網羅性を高める必要性があるものの、現時点で、扱ったヒト細胞株の由来や特徴に即し、かつ、共通性も窺える遺伝子群を多数見出すことができた。また、これらダークプロテオームをコードする新規遺伝子群から特徴的なモデル遺伝子として選出した3遺伝子に関して、同新規遺伝子とともに同じmRNA上に見出される既知遺伝子の塩基配列を含めた人工合成DNAを入手し、無細胞翻訳して、翻訳過程における両遺伝子の関係性について検証を行った。その結果、これら新規遺伝子の翻訳開始コドン変異時には、同じmRNA上に見出される既知遺伝子の翻訳量が増大することが分かった。以上の通り、複数のダークプロテオームを新たに見出し、これらダークプロテオームコード性の新規遺伝子の存在によって、共存する既知タンパク質遺伝子の過剰発現を抑制できている可能性を見出すことができた。これら本研究課題の初年度で見出したダークプロテオームについての学術論文を作成中である。また、ヒト細胞株を用いた翻訳制御機構解析のためのプラスミド構築にも着手できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題で新たに構築したヒト由来細胞株のORFeomeデータベースとそのin silico翻訳データベース (アミノ酸配列データベース) および公開・非公開の両プロテオームデータを利用したプロテオゲノミクス解析を継続し、さらなるダークプロテオームの予測と確定実験を進める。また、ダークプロテオーム候補にターゲットし高い検出感度を得るPRM解析の実施により、既存プロテオームデータを補完し、網羅性を高める生データ取得を進める。予測したダークプロテオームの確定実験のさらなる効率化を図るため、既存法に加え、研究代表者らが最近見出し有望なペプチド高収量タグ候補を活用した標品ペプチドの無細胞合成法を取り入れ、確定実験を推進する。本研究課題の初年度で見出したダークプロテオームをコードする新しい遺伝子群から特徴的なモデル遺伝子として選出した3遺伝子を対象とし、翻訳開始点の制御機構を詳細に調査する。本翻訳制御への関与が予想された複数のタンパク質遺伝子を人工合成DNAとして入手できたことから、これらタンパク質群の調製に着手する。また、本研究課題で新たに見出したダークプロテオームについての学術論文を国際誌で発表する。
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Causes of Carryover |
本研究課題の初年度において、データ駆動型プロテオゲノミクス解析の最適化等を実施した。これにより、新たに様々なダークプロテオームを見出すことに成功し、本手法の有効性を確かめることができた。また、新たに見出したダークプロテオームをコードする新規遺伝子群から特徴的なモデル遺伝子を選出することに成功し、これらモデル遺伝子の生化学実験・翻訳解析実験に早期に着手することができた。そのため、ダークプロテオーム候補にターゲットし高い検出感度を得るPRM解析を次年度での実施とし、先述の最適化等にさらに丹念に取り組んだことにより、次年度使用額が生じた。次年度は、同次年度使用額および翌年度分として請求した助成金とを合わせ、PRM解析等に取り組む計画である。
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Research Products
(2 results)