2022 Fiscal Year Research-status Report
植物の種認証に関わる花粉管誘引因子の機能解析と植物への新規遺伝子導入法の開発
Project/Area Number |
22K06262
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
金岡 雅浩 県立広島大学, 生物資源科学部, 教授 (10467277)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 植物有性生殖 / 花粉管 / 花粉管誘引 / 雌性配偶体 / トランスクリプトーム |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の種が維持されるためには、同種の配偶体を選別して受精することが重要である。被子植物では、胚珠から花粉管の伸長や誘引を制御する分子が分泌され、同種の花粉管を選択的に受け入れる。私はこれまでに、トレニア・シロイヌナズナを用いて複数の花粉管誘引因子を同定した。またトマトの胚珠トランスクリプトーム解析より誘引因子の候補遺伝子を得ている。 本研究は、花粉管誘引を深く理解するため、(1) 重要な作物種において花粉管の伸長を制御する誘引因子を同定すること、(2) 複数種由来の誘引因子の構造活性相関解析から、誘引活性を示すための構造の共通性、活性に種特異性をもたらすための構造の多様性について明らかにすること、を目的としている。これらの解析を通じて、花粉管の伸長や誘引を制御する因子の構造と機能について理解を深める。また、形質転換に時間のかかる植物での応用を目指して、(3) 花粉管を利用した新規遺伝子導入法の開発を試みている。 2022年度はトマトのトランスクリプトーム解析の結果を詳細に検討した。その結果、雌性配偶体の発生に関わる可能性が高いシステインリッチタンパク質をコードする遺伝子群、および受精に関わる可能性が高い遺伝子群をリストアップすることができた。 本研究と関連する植物有性生殖研究および共同研究の成果として、国内学会での口頭発表(1回)をおこなった。また、国際誌(査読有り)に筆頭・責任著者で1本、共著者として1本、論文を発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は年度の途中で、名古屋大学から県立広島大学に異動した。かなり急に決まった異動であったため、機材の運搬や新しい実験室の立ち上げに時間を要した。遺伝子組換え植物などは一旦栽培を中止せざるを得なかった。そのため当初の予定通りには研究を進めることができなかった。しかし、そのような状況においても、コンピューターをもちいてできる解析などは進めることができた。具体的には、トランスクリプトームのデータを再解析し、雌性配偶体の発生に関わる遺伝子(野生型胚珠と胚珠形成異常の変異体でのトランスクリプトームの比較)をリストアップし直した。また、授粉前後の胚珠トランスクリプトームの比較、および受粉に用いる花粉種の違いによる胚珠トランスクリプトームの比較より、正常な受粉により胚珠で発現が上昇する遺伝子約50を、受精関連因子としてリストアップすることができた。そのため、必要最低限の進捗は得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) トマトでの花粉管誘引因子の同定。前年度に引き続き、胚珠で発現しCRPをコードする遺伝子に着目してその機能を解析する。その1つであるCRP#11は助細胞で発現しノックアウト株は種子形成不全となる。令和5年度は主にCRP#11の機能解析をおこない、同時に他の遺伝子のノックアウト株を作成する。これらの遺伝子の解析により、トマトでの花粉管誘引因子を同定することを最終目標とする。 (2) 複数種由来の誘引因子の構造活性相関解析。これまでの研究より、トレニアTfLURE1の一部の領域をシロイヌナズナAtLURE1の配列で置き換えたキメラタンパク質は、シロイヌナズナの花粉管を誘引することができることが分かった。本年度は、AlphaHold2など最新の構造予測プログラムを駆使し、LUREとその受容体との複合体において種特異的な誘引に重要な部位の位置関係や構造上の特徴を解析する。(1)よりトマトにおける花粉管誘引因子(LUREやCALL1に相当する分子)が同定できていれば、構造をトレニア・シロイヌナズナのそれと比較し、同様のキメラタンパク質を作成してそれぞれの種の花粉管に対して誘引活性を検討する。以上の解析を通じて、誘引活性を示すための構造の共通性、活性に種特異性をもたらすための構造の多様性について明らかにする。 (3) 花粉管を介した新規遺伝子導入・発現系の構築。花粉管細胞膜の構成成分を模した小胞を作成し、その中にmRNAやアンチセンスオリゴなどを封入する。この小胞を、培地上を伸長する花粉管に与えることで、内容物の取り込みとそれによる遺伝子発現・発現抑制が起こるかを検討する。うまくいけばトマトにおいても同様の手法で遺伝子発現を検討する。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた試薬の在庫が国内になく、海外から取り寄せる必要があったが、年度内に納品が間に合わない可能性が生じたため発注を見合わせた。そのために次年度使用額が生じた。 その試薬については、今年度あらためて見積もりをとって注文する予定である。
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