2022 Fiscal Year Research-status Report
光感受性網膜神経節細胞のシグナル伝達系による非視覚光応答の制御メカニズムの解析
Project/Area Number |
22K06308
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
木股 直規 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (40822929)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 非視覚光受容 / ipRGC / メラノプシン |
Outline of Annual Research Achievements |
本計画では、ipRGC内のメラノプシンが光依存的に活性化する2つのシグナル伝達経路であるGq経路とGs経路の生理的な意義を解明することを目指している。本年度はまず、ipRGC特異的にGsDREADDまたはGqDREADDを発現させた各マウス系統について、DREADDを活性化する薬剤であるDCZ投与による行動リズムの位相シフトを測定した。その結果、GqDREADDマウスは、暗期の前半に薬剤を投与することで位相が後退し、暗期の後半に投与することで位相が前進した。これは、同じタイミングでの光照射で見られる位相シフトの傾向と一致している。一方で、GsDREADDマウスでは同様の位相シフトが見られなかった。この結果から、体内時計の光調節機能についてはipRGC内のGq経路のみが位相シフトを引き起こし、Gs経路はGq経路をサポートする役割があることが示唆された。 これと並行し、新生児マウスにおけるGs経路の生理機能を解明するため、本年度は新生児の行動量を測定する系の確立を試みた。新生児は体が小さいため、成体マウスと同様の輪回し運動装置を用いて行動量を測定できない。そこで、新生児マウスの行動をビデオカメラで撮影し、その動画を解析することで行動量および行動様式を測定することを考えた。具体的には、6日齢から13日齢の新生児マウスの行動量・様式を比較した。その結果、8日齢から13日齢のマウスにおいて、動画の各フレームでの個体の位置・向きを検出することに成功した。今回確立した行動測定系を用いることで、新生児マウスの行動解析が可能であると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DREADDを用いたGqおよびGs経路の機能解析については、各DREADDの遺伝子導入系統がすでに確立していたこともあり、順調に結果が出ている。これにより、当初予想された複数の生理応答メカニズムの中から有力な候補を絞り込むことに成功した。予想されたメカニズムに基づき、次の解析に用いるマウスの交配もすでに実行しており、今後も順調に結果が出ることが期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果から、ipRGC内のGs経路は体内時計の位相シフトを直接的には引き起こさないことが明らかになった。したがって、今後は瞳孔反射などの他の非視覚光機能について検証を行うとともに、Gs経路が非視覚光応答をモジュレーションする可能性について詳しく検討する方針で研究を遂行する。過去の報告から、ipRGCはメラノプシン由来の光シグナルと視細胞由来の神経シグナルを統合する役割を担っていることが知られている。そこで、メラノプシンまたは視細胞の片方のみを欠損したマウスにGsDREADDを導入することで、ipRGC内のGs活性化がメラノプシンまたは視細胞に由来するシグナル経路に与える影響を検証する予定である。 また、DREADDを用いる実験と並行し、GsまたはGqを選択的に活性化するメラノプシンを作製する。DREADDの活性化には薬剤投与が必要であるため、活性の時間的制御が困難である。そのため、瞳孔反射などの即時的な生理応答の解析にはオプシンの方が有用なツールであると考えられる。この問題を解決するため、GqまたはGsのみを活性化するメラノプシンを作製し、マウスipRGCに発現させることを試みる。 さらに、新生児マウスの行動解析については、昨年度に確立した測定系を用いて、明暗条件における行動量・様式の比較解析を行う。これに加えて、新生児マウスにおけるGq・Gs系の機能の違いを解析するため、GqDREADDマウス・GsDREADDマウスの新生児の行動測定も試みる。成体マウスと異なり、新生児マウスに薬剤を腹腔内投与することは困難であるため、経口投与を中心に薬剤の投与方法の検討・確立から着手する予定である。
|
Causes of Carryover |
昨年度から研究代表者の主な所属が変更になり、旧所属先では客員研究員という形でマウスを用いる研究を遂行することとなった。そのため、実験に使用するマウスは旧所属先の施設で継続して飼育しており、予算執行の事務的な都合でマウスの維持費を共同利用者の研究費から支出していた。これにより、本年度は研究費の使用額が当初の見積もりよりも少なくなった。次年度以降は、共同利用者と相談の上、前所属先のマウス飼育費を負担する手続きを整えることで本年度よりも使用額が増加することが予想される。
|