2023 Fiscal Year Research-status Report
動物個体間の階層関係を規定する、攻撃制御遺伝子・神経基盤の解明
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22K06309
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 健一 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60895465)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 攻撃行動 / 社会性 / 痛覚 / 発達障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
攻撃行動は動物個体の社会的経験により影響を受けることが知られているが、そのメカニズムには不明な点が多く残されている。ある個体の攻撃行動が変化する主要因の一つとして、他個体から攻撃を受けたことにより生じる「痛覚」が想定される。そこで本年度は痛覚システムに着目し、ショウジョウバエをモデルとして痛覚制御の分子・神経メカニズムを解析した。 まず、ショウジョウバエの脳神経データベースから、痛覚感知を担う一次侵害受容ニューロンと接続する二次ニューロン群を探索した。これらのうち、遺伝学的な神経活動阻害によりハエの痛覚応答性が顕著に上昇する「痛覚抑制ニューロン」を同定し、SDGsと命名した。次に、神経細胞の活動を計測する生理学実験を行ったところ、SDGsから放出される神経伝達物質GABAが一次侵害受容ニューロンのGABA-B受容体に作用し、痛覚応答が抑制されることが示された。さらに、SDGsの神経活動は常時一定でなく、個体の栄養状態により柔軟に変化することが見出された。絶食後のハエに糖を摂食させると、SDGsの神経活動が亢進し、痛覚応答性が顕著に低下した。これらの結果は、新規痛覚抑制ニューロンSDGsが状況依存的な痛覚制御を担うことを示唆している。 ヒトにおいて社会的経験と痛覚は密接に関係しており、その破綻は自閉スペクトラム症等の発達障害によく観察される。発達障害の原因遺伝子Ube3aの変異により、ショウジョウバエ一次侵害受容ニューロンのシナプス形成に異常が起こり、痛覚応答性が変化することが見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
社会的経験と攻撃行動の関係を紐解くうえで重要な鍵と考えられる「痛覚」に関して、(1)生理的な状況に依存して痛覚制御を担う新規ニューロン群を同定し、さらに(2)発達障害による痛覚異常の分子メカニズムを解明することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに明らかにした、攻撃行動に影響を与える因子(nervyおよびその関連遺伝子群)や神経細胞群(オクトパミン陽性ニューロン)について、痛覚との関連を調べる。
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Causes of Carryover |
一部実験で予想に反する結果が得られ、当初の実験予定を変更したため。
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