2023 Fiscal Year Research-status Report
周北極植物の温帯への適応種分化と生育環境シフトにおける花粉媒介者の役割の推定
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22K06357
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
福田 知子 三重大学, 教育推進・学生支援機構 全学共通教育センター, 特任講師(教育担当) (10508633)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 直子 東北大学, 農学研究科, 特任准教授 (20771322)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 種分化 / 訪花昆虫 / 花形態 |
Outline of Annual Research Achievements |
クロクモソウはユキノシタ科チシマイワブキ属の草本であり、千島列島から九州にまで分布する日本準固有種である。これまでの研究から、クロクモソウは、シベリアイワブキから分化し、シベリアイワブキとは遺伝的に異なる独立したグループであることが分かった(Fukuda et al. 2023)。クロクモソウが高緯度地方に分布するシベリアイワブキ他と異なり、日本列島の温帯地域まで分布を広げていることや、キノコバエ媒特有の花形態を持つこと(Mochizuki & Kawakita 2018)から、本研究ではクロクモソウの種分化に花粉媒介者のスイッチが関わったのではないかという観点から実験・観察を進めている。 花粉媒介者の調査の一環として、2023年8-9月の開花期に釧路(北海道)、宮崎(九州)にて訪花昆虫のインターバル撮影を行い、以前(2018-19)の調査結果と合わせて解析を行った(一部、2024年3月の日本植物分類学会で発表)。観察の過程で花色(赤色・緑白色)の違いによる訪花昆虫・頻度の違いが見られたことから、今後、花色の違いにも注目して観察する予定である。 計画書のRAD解析(次世代シーケンシング技術を用いて制限酵素認識サイトの近隣領域を解析する手法)については、クロクモソウの分布範囲をカバーする51地点からサンプル収集を行い、外群として極東各地のシベリアイワブキ、Micranthes ohwii、フキユキノシタを加えた192サンプルをRAD解析用に送付した。2024年3月に結果を受け取ったので、今後詳細な解析を行う。 なお、クロクモソウとの系統関係において、クロクモソウと葉緑体ハプロタイプで高い支持率でクレードを形成したアラスカ周辺のシベリアイワブキを調べるため、アラスカ5地点においてサンプル採取を行った。これらのサンプルも今後解析し、クロクモソウとの関係を調べたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022-23年度に北海道(釧路)、岩手(赤倉沢)、山形(坊平)、長野(立山、穂高他)、石川(白山)、九州(宮崎)のサンプルを追加したことにより、サンプル地点は51地点となり、クロクモソウの分布域全体をカバーすることができた。これらのサンプルは過去に採集したシベリアイワブキやその近縁種のサンプルとともにRAD解析用に送付して次世代シーケンサーによる解析結果を得た。今後はこの結果を解析していく予定である。並行して訪花昆虫のインターバル撮影の解析も進めており、完了次第、論文化を目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
RAD解析のデータを解析し、クロクモソウの種分化・分布拡大過程を明らかにする。クロクモソウの分布拡大については、葉緑体ハプロタイプに基づく系統解析から、クロクモソウ種内の3分類群のうち東北~北海道に分布するエゾクロクモソウが最後に分化したことが示唆されているが、詳細は不明であり、より詳細な進化過程を明らかにしたい。分子集団遺伝学の手法から花の形質に関連した領域で自然選択の痕跡(関連領域における多様性の有意な低下)がみられるかどうかを検討し、花の形態、訪花昆虫のデータとも突き合わせることによって、クロクモソウの花形態の特徴の遺伝的背景について何らかの手がかりを得たいと考えている。 訪花昆虫の観察も引き続き行う。さらに、花色の違いによって訪花昆虫の種類・訪花頻度の違いがある可能性が見られたことから、この点にも注目しながら観察を進めたい。
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Causes of Carryover |
前倒し請求の申請期間が過ぎた後、解析経費として高額な請求があったため、予算が不足する恐れから、これまで共同研究者に渡した分担金から100,000円を返却していただいた。しかしその後、授業関係の収入があり、不足金額がカバーできたため、100,000円は使用しなかった。また、2023年度末に35,000円のシーケンス解析委託を予定していたが、2024年度にずれ込んだため、約40,000円が未使用となった。これらの残金は今後の実験費用として使用する予定である。
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