2022 Fiscal Year Research-status Report
同じ遺伝子型の植物が繋がるクローナル植物で、病気が広がりにくいのはなぜか?
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22K06391
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
鈴木 準一郎 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (00291237)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イタドリ / クローナル植物 / 生理的統合 / 病気 / 感染 / 子のう菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
クローナル植物とは、葉と茎や花からなる地上茎と根からなる植物体(ラメット)が、地下茎や匍匐枝を介して栄養繁殖により、複数連結した植物の総称であり、様々なバイオームの草本植物の大半はクローナル植物である。そのため、クローナル植物の生態的特性の理解は、生態系機能の解明に加え、生物多様性の保全においても重要である。さらに、クローナル植物では、匍匐枝などで連結した複数のラメットの間で、水・栄養塩や光合成産物やホルモンなどが移動し、この現象は生理的統合と呼ばれる。生理的統合により、若いラメットの生残率は、非クローナル植物の幼植物よりも高く、クローナル植物が優占する主要因とされる。一方で、生理的統合により、ウイルスや病原菌なども、植物体内で広がりやすいとされる。また、遺伝子組み替えをもたらす有性繁殖の機会が少ないクローナル植物は、病気への対応能力に乏しい。これは、無性繁殖(クローナル成長)のコストと考えられ、有性繁殖が寄生者や病原菌に対する抵抗性を維持する機構(赤の女王仮説)の例と考えられる。では、クローナル植物は、野外で、病気の影響をどの程度、受けているのであろうか。植物の個体群動態に病気が大きく影響する可能性は、指摘されてきたが、クローナル植物の野外での実証研究は少ない。そこで、野外のクローナル植物個体群で、個体内での病気の拡散程度を定量し、これを非クローナル植物のそれと比較すれば、クローナル成長のコストを評価できる。一方で、野外のクローナル植物の個体群では、理論的な予想とは異なり、顕著な病気の蔓延は多くは見られない。なぜ、病気は蔓延しないのだろうか。この現象に対して、「ラメット間の生理的統合が、植物の免疫(全身獲得抵抗性;病原体に局所的に曝された植物体に見られる全身の抵抗性反応)としても機能する」という仮説を提唱し検討を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クローナル植物とは、一つの種子に由来する植物が、匍匐枝などを介して栄養繁殖で成長し、複数の植物体(ラメット)が繋がった植物の総称である。クローナル植物では、複数のラメットが遺伝的に同一なため、有性繁殖のコストを免れる一方、病気の感染に脆弱(無性繁殖のコスト)だと考えられる。とくにクローナル植物では、生理的統合により、植物体内で病原菌やウイルスが広がりやすいとされている。しかし、温帯以北では、クローナル植物は群集構成種数とバイオマスの大半を占る。しかも、病気の蔓延はあまり観察できない。そこで、クローナル植物であるイタドリの野外個体での病気の感染を評価するとともに、クローナル植物の免疫における生理的統合の効果を栽培実験により評価することを試みた。野外から採集した葉からそこに分布する菌類を採集し、培養したところ、予想とは異なり、少なくとも多摩地区のイタドリは、一般的には病原性だと言われているPhyllosticta属の子のう菌に感染しているものが多いことが明らかになった。既存のプライマーを用いて、これまでにイタドリへの感染の報告があるPhyllosticta属の種同定を試みたが、これまで報告のある種による感染ではなかった。一方で、感染が分子解析により確認されたメス個体から採集された種子では、感染した親子隊から種子(実生)への子のう菌の垂直伝搬はみられない可能性が高いことがあきらかになった。以上から、多摩地区のイタドリで広くみられたPhyllosticta属の感染は、実生定着後に生じている可能性が高い。また、本種への感染は、イタドリ成長に大きく影響しない可能性も高い。今後は、感染している菌類の同定とその病害性の評価を試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、以下の課題について野外調査と栽培実験、採集したサンプルの培養や分析を行う。 1)多摩地区のイタドリで広くみられるPhyllosticta属の種同定。同属のいくつかの種については、種特異的な塩基配列が報告されているため、より多くの既存のプライマーを用いて、同定を試みる。それ以外の種の可能性については、既報告の種特異的な塩基配列から、プライマー作成し同定を試みる。 2)昨年度に予備的に行なった富士山御殿場口5号目太郎坊付近でのイタドリ個体群でも、とくに生育シーズンの後半には、Phyllosticta属によると考えられる病斑が観察された。そのため、この付近でも生葉から菌類を採集し、培養を試み、さらにその種同定も実施する。また、Phyllosticta属の病変は、生育シーズンの前半には潜在する可能性もあり、これも観察と培養により確認する。 3)感染メス個体が生産した種子由来の実生に菌が移行するかを、定量的に評価する。複数の感染メス個体から種子を採集しており、その種子を無菌培地にて栽培し、種子の組織を介した菌類の垂直伝搬が見られるかを検討する。予備実験では、伝搬は見られなかった。 4)当初予定した、病原菌の人工接種による感染実験は、予定していた非感染のイタドリ個体の入手が困難な可能性がたかかった。そこで、アンビエントな環境下で種子から発芽した植物体で、どの程度の菌感染がみられるかも定量する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、野外調査を多く行う予定だったが、イタドリの子のう菌への感染の有無を培養を用いて検討した方が良い可能性が認められたため、野外調査の回数を大きく減らして、菌感染の有無を培養により検討することした。また、高精度天秤については、設置予定場所としてた研究室がある棟の同階で生じた2021年12月の火災の復旧工事の都合で、昨年度内の購入を見送った。そのため、次年度使用額が大きくなった。
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