2023 Fiscal Year Research-status Report
鳥類における卵表面の微細構造と脂質による被覆が適応度に及ぼす影響の包括的評価
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22K06395
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
松井 晋 東海大学, 生物学部, 准教授 (20727292)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 敦 東海大学, 生物学部, 准教授 (80205898)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 尾脂腺分泌物 / 抗菌活性 / 抱卵行動 / 雌雄差 |
Outline of Annual Research Achievements |
私達の研究室では、細菌などの微生物から胚を守る最初の防御機構となる鳥類の卵表面の撥水性や産卵後に卵表面を被覆する物質の機能を統合的に理解することをめざす研究に取り組んでいる。これまでの研究では、薄層クロマトグラフィーによってスズメ目鳥類の一種であるシジュウカラの卵表面から尾脂腺(鳥類の尾の付け根にある分泌腺)に由来すると考えられる脂質が検出され、抱卵期から産卵期にかけて、卵を温めるメス親の尾脂腺分泌物が卵表面に移行することが示唆されている。 2022年に引き続き、2023年にも抱卵するメス親と、抱卵しないので卵と接触しないオス親の尾脂腺分泌物の成分をガスクロマトグラフィーで分析したところ、シジュウカラの尾脂腺分泌物成分には雌雄差があることが示唆された。そこで予備的にメス親の尾脂腺分泌物に抗菌活性があるのかを検証した。この予備実験では、はっきりした結果は得られていないが、尾脂腺分泌物は親の体表面から採取した複数の細菌のうちの一部に、抗菌活性を示す可能性がある。 また、インターバルカメラで巣箱内を30分に1回の頻度で長期間撮影し、造巣期からヒナが巣立つまで期間のシジュウカラの詳細な繁殖行動を詳細に分析した結果、産卵期にメス親が夜間に巣に滞在していることが明らかになった。これは産卵期から尾脂腺分泌物が卵表面に徐々に移行していることを示唆するガスクロマトグラフィーの結果と現時点では矛盾していない結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの研究で尾脂腺由来の成分がシジュウカラの卵表面に移行することが示唆されているが、シジュウカラの尾脂腺成分の抗菌活性については検証できていなかった。2023年の野外調査ではシジュウカラの雌雄から尾脂腺分泌物を採取し、さらに親の体表面から採取して培養した複数の細菌に対する抗菌活性を予備的に検査することができた。はっきりした結果は得られていないが、親の体表面から採取した複数の細菌のうちの一部に、尾脂腺分泌物は抗菌活性を示す可能性がある。また、尾脂腺分泌物の成分にはアセトンなどの有機溶媒で抽出できる脂質と、抽出されない脂質以外の物質も含まれており、後者の物質で抗菌活性がみられる可能性がある。今後これらの検証をさらに進めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、産卵期と抱卵期のシジュウカラの卵表面から抽出される成分、オスとメスの尾脂腺分泌物に含まれる成分をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)により分析することで、尾脂腺成分の雌雄差と、親の尾脂腺分泌物が卵表面に移行する時期を明らかにする。また、昨年度から引き続き、卵表面の脂質や親の尾脂腺分泌物の抗菌作用を解明することを目指す。
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Causes of Carryover |
2022年度に計画していたシジュウカラの卵表面と巣材の細菌叢分析等については、方法が確立できていなかった問題もあり、十分なサンプル数を得られることができなかったため、実施内容を変更して親鳥の体表から採取した複数の細菌を培養した。これらの一部の実験については、サンプル数が十分に得られる見通しのたった次年度に実施した方が合理的と判断したため、次年度使用額が生じた。これらは次年度の実験で使用できる見込みのサンプルの処理や、得られた成果を発表するために使用する予定である。
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