2022 Fiscal Year Research-status Report
ポリイオンコンプレックス技術の最適化による革新的な高分子経皮吸収促進技術の開発
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22K06548
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
徳留 嘉寛 佐賀大学, リージョナル・イノベーションセンター, 特任教授 (70409390)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 皮膚浸透 / イオンコンプレックス / 経皮吸収 |
Outline of Annual Research Achievements |
皮膚の最外層にある角層はバリア機能として作用する。体内からの水分蒸散を防ぐことや体外からの異物侵入を防ぐことから人類が地上で生命を営むためには重要とされてきた。このバリア機能は皮膚から医薬品や化粧品有効成分を適用する上でも発揮され、一般的に、水溶性が比較的高く、分子量が大きい(分子量500以上)物性の化合物の経皮吸収性は極めて低く、通常の方法では皮膚内に十分量を送達することは困難とされてきた。国内外の多くの研究者がこの問題を解決するために鋭意努力をしてきた結果として、エタノールなどに代表される化学的な経皮吸収促進剤は、低分子化合物に対する効果は明らかなものの、高分子化合物の皮膚浸透性促進には、ほとんど効果がない。そこで、マイクロニードル(角層に針で物理的な穴を開ける方法)やイオン導入法(低電流を皮膚に適用し、主にイオン性物質を電気的に移動させる方法)など物理的な経皮吸収促進法を用いて経皮吸収を促進する試みが行われてきた。しかし、物理的経皮吸収促進法は、一部、侵襲性があるとされる投与法であること、皮膚への損傷が否定できないこと、特別な機器を使う必要があることなどが大きな課題であった。 申請者は、ヒアルロン酸(HA)をポリイオンコンプレックス法で粒子化(ヒアルロン酸ナノ粒子、HANP)し、そのHANPを皮膚から適用することで水溶性高分子のヒアルロン酸を電気などの力を借りずに皮膚中に送達できることを報告してきた。本課題ではヒアルロン酸だけではなくそれ以外の水溶性高分子(コラーゲンなど)の皮膚内送達最適処方や因子の確立または解明、さらに、タンパク質のナノ粒子化による経皮吸収促進技術を開発することで、今までに類をみない経皮吸収研究技術の基盤的な理論を構築することを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒアルロン酸・コラーゲンナノ粒子の調製 0.1mMのHA水溶液と0.1mMのCOL溶液を混合した。調製された複合体の物性値は粒子径 2912.4 nmであった。コラーゲンは3重らせん構造をしており、熱変性させることで1本鎖となる。そのため、40℃で20分加熱後(以下、変性後COL)のコラーゲンで検討を進めた。0.1mMのHA水溶液と変性前COLの50mMのbuffer溶液を混合した複合体の粒子径は 452.3nmであった。よって、以降の検討は変性後COL水溶液を用いることに決定した。
緩衝液濃度の検討 コラーゲンは等電点が約6.6と報告されているので、pHを酸性側に変動させることでCOLのカチオン化が期待される。HAと各種pHのCOLを任意の濃度や比率で混合することでHACOLNPの調製を試みた。pH4.0を目標にして、任意の濃度のbufferで調製し、0.1 mMのHA水溶液と0.1 mMの変性後COL溶液を混合し、物性値を測定した。イオンコンプレックスはイオン強度の高い緩衝液を使用すると破壊されることがわかっているため、この検討を行った。10 mM以下のbufferを用いて調製した複合体は、その濃度上昇に伴って粒子径、ゼータ電位の絶対値が増大した。一方、0.1 mMのbufferを用いて調製した複合体は、物性値が大きくなり、粒子が形成されなかったことが考えられる。これらの結果よりbuffer濃度が上昇すると、粒子が崩壊することが示唆された。また、0.1 mMのbufferを用いたとき、溶液中のpHが制御できず、粒子が形成されない可能性が示された。3 mMのbufferを用いて調製したHACOLNPは、粒子径、PDIの値が小さく、ゼータ電位の絶対値が-15 mVを超えていたことから、今後の検討に用いることに決定した。
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Strategy for Future Research Activity |
コラーゲンののカチオン化(COL)を検討し、HAとCOLを用いたHACOLNPを調製と物性評価をおこなった。コラーゲンはそのままでは粒子化が困難であったが、熱変性をさせることで3重らせんから一本鎖にすることで三次元構造を変えること、さらに、等電点よりも酸性にすることで、HAとCOLのナノ粒子を調製することができた。今後は、調製された粒子を皮膚に適用し、皮膚中のヒアルロン酸やコラーゲンを定量してその有用性を確認する予定である。また、ヒアルロン酸やコラーゲン量を変化させることで、粒子表面の電荷を変化させることが可能であるため、粒子の電位によるヒアルロン酸やコラーゲンの皮膚浸透性を評価する。同様に粒子の大きさを制禦することで、経皮吸収に関わる因子が少しでも理解できるようにしたい。
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