2023 Fiscal Year Research-status Report
再生資源の選択と天然物の高次利用による創薬研究への展開
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22K06673
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
北山 隆 近畿大学, 農学部, 教授 (00278730)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 再生可能資源 / ハナショウガ / ゼルンボン |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題では、創薬など機能性物質を開発するための効果的なアプローチとして、再生可能資源中に存在する反応多様な中程度の分子量をもつ天然物を利用することで、多様な構造をもつ化合物の創出を目指している。多様な反応性を有する天然物としてゼルンボンを乾燥重量当たり1%以上含有するハナショウガを再生可能資源として利用し、これまでに僅か2~3ステップの化学反応で6種類の複雑な構造をもつ他の天然物類縁体へ変換することに成功している。この多様な構造体構築の成果はゼルンボンのもつ僅かなポテンシャルを示したに過ぎず、創薬に応用するためには以降の研究展開が非常に重要となるため、本研究では1)ゼルンボンへの不斉炭素の付与による新規キラルビルディングブロックの構築、2)ゼルンボンに1炭素増加し、アレン基を分子内に有するアレン型ゼルンボンを用いた新規骨格構築および酸性条件下での反応挙動を解明する。 1.アキラルなゼルンボンの還元に続く2,3位および10,11位をそれぞれ還元したジヒドロゼルンボールを基質としてリパーゼを用いた速度論的トランスエステル化により、高立体選択的な反応進行の確認と、それぞれの光学活性体を高い鏡像体過剰率で得ることに成功し、課題としていた絶対立体配置の確定にも成功した。また、本化合物を用いた絶対配置未同定天然物の立体配置の決定が可能となった。 2.ゼルンボン誘導体のアレン型ゼルンボンを、ブレンステッド酸添加時の反応解析を進めた結果、複数の中間体を経ていくつかの最終生成物が得られることが分かった。さらに時間経過に伴うそれらの生成率の推移に再現性があることを確認し、本年度は数種の最終生成物の単離、同定に成功した。また数種類の関連中間体化合物の単離同定に成功し、反応機構も明らかとなってきている。 以上の様に研究課題は順調に進展しており、所期の目的の達成に向けて予定通り研究を継続する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)ハナショウガの抽出:本研究に使用するための十分量のハナショウガを入手し、当初予定していた水蒸気蒸留をSoxhlet抽出およびメタノール浸漬に変更して行うことで、乾燥重量当たり約2重量%程度のゼルンボンの精製を行うことができているため、予定通り2024年度も引き続き精製を継続する。 (2-1)前年度までに合成した2,3-および10,11-ジヒドロゼルンボールを基質としてヘキサン中でリパーゼ(CALBおよびQLM)を用いた速度論的トランスエステル化を行ったところ、両者ともに高立体選択的に反応が進行し、それぞれの光学活性体が高い鏡像体過剰率で得られた。本年度はこれらの光学活性体の絶対配置の確定を進めた。2,3-および10,11-ジヒドロゼルンボールそれぞれを水素添加することで、2,3,10,11-テトラヒドロゼルンボールが得られた。以前申請者によって確立した方法で別途得た光学活性2,3,10,11-テトラヒドロゼルンボールの立体配置と比較することによって、これら化合物の絶対配置の決定に成功した。 (2-2)アレン型ゼルンボンの酸性条件下における反応検討:酢酸エチル中、アレン型ゼルンボンに5Mのブレンステッド酸(HCl)を加え、35℃で攪拌することで複数の中間体を経ていくつかの最終生成物に収束することが前年度までに分かっていた。そこで本年度は、ガスクロマトグラフィーを用いることで網羅的に生成物を追跡し、前年度に明らかとなった3環式中間体(新規骨格:decahydro-1H-cyclopenta[d]indene)のジアステレオマー数種を得たと同時に、相対立体配置も明らかとした。この成果によって、最終生成物に至る反応機構の類推が可能となった。現在、反応に主に関与するすべての中間体およびその他の最終生成物の単離精製にも取り組み、より詳細な反応機構解明にも着手している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ハナショウガの抽出:2024年度はゼルンボンの抽出効率向上も検討しつつ精製を継続する。 (2-1)これまでに2,3-および10,11-ジヒドロゼルンボールを基質としてヘキサン中でリパーゼ(CALBおよびQLM)を用いた速度論的トランスエステル化を行ったところ、両者ともに高立体選択的に反応が進行してそれぞれの光学活性体が高い鏡像体過剰率で得られ、これらの絶対立体配置の確定に成功した。そこで、機能性植物として知られているタマフジウツギ中に存在する絶対配置未同定の化合物(Buddledone A)の絶対配置を決定するため、タマフジウツギを欧州より入手し、根部のジクロロメタン抽出によってBuddledone Aを単離することで絶対配置を確定させたい。 (2-2)アレン型ゼルンボンを酢酸エチル中、ブレンステッド酸(HCl)存在下で反応し、生成した生成挙動を、本研究期間内にガスクロマトグラフィーを用いて網羅的に可視化することに成功し、これにより反応中間体と最終生成物を単離同定し、decahydro-1H-cyclopenta[d]indeneを新規基本骨格とする3つのジアステレオマーを得ることに成功した。その中の2化合物が最終生成物(1,2,2a,3,4,5-hexahydroacenaphthylene)へと変換されることが明らかとなったため、計算化学的根拠(密度汎関数理論(B3LYP/6-31*))によって、その生成機構が明らかとなりつつある。今後はより詳細に反応機構を明らかにすると同時に、他化合物の単離同定を進め、新たな生成物群を見いだす予定である。さらに本研究期間中には検討に及ぶことができなかったルイス酸(BBr3、AlCl3)存在下によるアレン型ゼルンボンの反応挙動についても同様の手法で確定する。
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Causes of Carryover |
研究遂行上、最も重要な出発物質であるゼルンボンを2022年度に入手するため、ハナショウガ根茎部の大量購入を計画していたが、約2年分のハナショウガを別途確保することができるようになり、原料入手として当初の見込みで計上していたハナショウガを別途入手できたことから、これに充てていた予算を使用することなく2023年度は研究を遂行することが可能となった。このことから生成物の分離精製に重要な役割を果たす示差屈折率検出器(RID)を購入し、本年度の研究に大きな寄与を果たした。 研究はおおむね順調に進展し、さらに、分離に必要な分取用カラムや溶媒、反応試薬を2024年度に十分量購入し、かつ広く研究成果を周知するための学会参加費として予算を活用する必要があるため、次年度使用額が生じた。
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