2023 Fiscal Year Research-status Report
グリア細胞におけるPKM制御と神経細胞へのエネルギー供給の意義の解明
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22K06879
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
矢野 佳芳 (早川佳芳) 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任講師 (60397320)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢野 真人 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (20445414)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Quaking / RNA制御 / グリア細胞 / 選択的スプライシング / ピルビン酸キナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
中枢神経系における神経細胞とグリア細胞には、グルコース代謝系において生化学的に大きな差異があることが知られている。近年、グリア細胞は神経細胞に乳酸を供与することで、神経細胞へのエネルギーを供給し、代謝面でのサポートをしており、この機構の障害は記憶の形成等に影響することが報告されている。また、これらのグリア細胞と神経細胞における代謝連関は、基礎的な細胞生物学だけでなく、神経系疾患の発症機構の分子機序を理解する上で、非常に重要であると考えられる。そこで、本研究計画では、グリア細胞における乳酸代謝を制御する分子機構について解明し、グリア細胞と神経細胞における代謝連関の制御機構について明らかにすることを目的としている。具体的には、神経系のグリア細胞の一つであるオリゴデンドロサイト(OLs)に強く発現するRNA結合蛋白質Quaking5(Qki5)に注目し、標的となるmRNAの選択的スプライシング制御の観点から、乳酸代謝の分子制御機構の解析を行う。 昨年度は、マウス培養オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を用いて、Qkの発現抑制を行った細胞およびコントロール細胞よりRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を行ない、変動遺伝子について検討し、選択的スプライシングを中心に包括的解析し、制御エクソンを網羅的に同定した。さらに今年度は、その中から乳酸代謝の律速酵素の一つであるピルビン酸キナーゼ(PKM1/2)に着目し、Qki5の結合情報と統合的な解析をすることで、Qki5の結合部位の同定およびPKM1/2の比率をQki5が制御する分子機構について明らかにした。これにより、グリア細胞内における乳酸代謝の制御メカニズムの一端が解明され、Qki結合配列情報を元に核酸の設計操作が可能であることが示唆され、今後の創薬の分子基盤となる情報が得られたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、マウス培養OPCにおいてQk siRNA(Qk-KD)を導入し、トランスクリプトーム解析を実施した。そこで、mRNAの定量解析に加えて、選択的スプライシングの動態についてOLego-Quantasを用いて解析し、制御exonの同定を行った。その結果、Qk-KD OPCにおいて2,914の変動エクソンが認められ、OPC特異的exon164個を同定した。またこれらのOPC特異的exonにおけるQki5の寄与度を検討した結果、半数のexonの制御をしており、Qki5の寄与の大きさが明らかとなった(Hayakawa-Yano et al, 改訂中)。 今年度は、Qki5制御exonの一つとして、解糖系の律速酵素であるPKM1/2の選択的スプライシング制御とその結合部位を同定した。PKMはexon9選択によりPKM1型、exon10選択によりPKM2型となる。Qki5はexon9の上流intronにおいてACUAAYを含む配列に結合し、exon9を抑制することで、PKM2型の発現を促進しており、乳酸代謝の制御をしていることが明らかとなった。よって、Qki5は選択的プライシング制御により細胞種特異的な代謝機構を制御する因子であることがわかった。当初今年度に予定していたOPCにおけるメタボローム解析はやや遅れているものの、Qki5の結合部位ACUAAYを含む配列に相補的に結合するアンチセンス核酸(ASO)を設計をし、導入する準備については前倒しで進めている。さらに、生体内で解析を行うため、OLs特異的CNPase-creマウスとQk-floxマウスと掛け合わる準備を進めている。一方で、ヒト腫瘍の一種であるアストロサイトーマ由来のU251細胞でも検討した結果、期待するほどの変化は見られなかった。以上により、概ね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、Qki5の結合部位ACUAAYを含む配列に相補的に結合するアンチセンス核酸(ASO)を設計し、配列の位置、種類、OPCへの導入方法を検証中である。今年度は、Qki5による作動エレメントに対するASOを最適化し、OPCを用いてQkiの結合を抑制した条件下でPKM1/2の量比の変動をqPCR法を用いて定量し、Qki5による作動エレメントを同定し、ASOによるPKM1/2の操作が可能かを検証する。さらに、偏りなくOPCにおいて代謝に関与する標的RNAについて抽出し、PKM1/2と同様の解析を用いて、制御機構を明らかにし、細胞生物学的に重要な作用経路を明らかにする。また、Qk-KD OPCを用いてメタボローム解析を行い、代謝系におけるQki5の作用経路を明らかにする。U251はアストロサイトーマ由来の細胞であり、代謝系が必ずしも生理的状態とは異なる場合も考えられるため、その場合はマウス初代培養でのQk-KDを検討し、アストロサイトにおける機能を検証する必要があると考えている。 また、生体内のOL細胞系譜におけるQkiのOLs特異的なKOマウス(CNPase-cre:Qk-flox cKO)の神経系を解析し、OLにおける代謝制御、OLの分化、髄鞘形成における表現型を解析し、さらに神経細胞の軸索の保持への影響を検証し、生体内OLにおけるQkiの役割を明らかにする予定である。またCNPase-cre:Qkfl/fl cKOは発生学的な異常が認められる可能性があるため、その場合は、PLP-creER mouseによりtamoxifen誘導系で成体マウスでの解析を検討する。また、cKO由来のOPCを単離培養、もしくはゲノム編集によりQk KOの細胞株を作出し、野生型の神経細胞と共培養することにより、OLsから神経細胞へエネルギー供給の役割を評価する系を立ち上げて検討する。
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Causes of Carryover |
2023年度は研究代表者の異動に伴い、所属先が変更となった。そのため、根本的に大きな変更はないものの、当初の研究計画と進捗状況にやや相違が生じており、最終年度である2024年度はその相違部分を調整しながら研究を進めることで、3年間の研究計画全体を完遂できるものと考えている。 具体的には、当初の計画にて、2023年度に計画していたメタボローム解析に関してはやや遅れがあり、一方で2024年度予定していたアンチセンス核酸(ASO)の設計については前倒しで進めることが、現段階でできている。よって、2024年度は遅れているQk-KD培養OPCを用いたメタボローム解析を優先的に進め、年度内にデータを取得し、OPCの代謝系におけるQkiの役割に関する知見を得たいと考えている。
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Research Products
(6 results)