2022 Fiscal Year Research-status Report
IKZF1変異によるB前駆細胞型急性リンパ性白血病悪性化の機序
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22K07153
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
吉田 年美 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 客員准教授 (80639154)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
滝澤 仁 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特別招聘教授 (10630866)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | B前駆細胞型急性リンパ性白血病 / BCR-ABL1 / IKZF1 / ヒト患者腫瘍組織移植モデル / ゲノム編集 / ゲノミクス / シングルセル / メタボロミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
転写因子IKAROSはリンパ球の早期分化に必須の調節因子であり、その遺伝子IKZF1における変異は高リスクなB前駆細胞型急性リンパ性白血病(BCP-ALL)、とりわけBCR-ABL1 (Ph+) BCP-ALLに高頻度に見られる。また、IKZF1変異は不良予後因子であることも明らかになっている。しかしながら、IKZF1変異に伴うBCP-ALL悪性化の機序および悪性化したBCP-ALL細胞の特性について詳細な解析はなされていない。近年、我々はDNA結合能を失ったIKAROSタンパク質の発現により、B前駆細胞が前白血病状態に変化する分子機序をマウスモデルで示した。これらの知見を踏まえ本研究では、ゲノム編集により患者由来のBCP-ALLにIKZF1変異を導入し、ヒト患者腫瘍組織移植モデル(PDX)を樹立し、IKZF1変異による遺伝子発現変化と細胞特性変化及びシングルセル遺伝子発現比較解析を行うことで、IKZF1変異による悪性化の原因となっている標的分子経路を解明する。 本研究ではヒト検体の遺伝的背景の違いを克服するため、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、患者由来のPh+BCP-ALL細胞におけるIKZF1のDNA結合部位に変異を導入し、ヒト患者腫瘍組織移植モデル(PDX)を樹立することで、同一の患者検体由来のIKZF1変異型細胞とコントロール細胞との比較解析を行うという独自のストラテジーを用いた。また、先端技術であるゲノミクス、メタボロミクスのマルチ・オミックスアプローチ及びシングルセル・レベルでの遺伝子発現解析を組み合わせ、IKAROSの代謝経路における役割を理解するとともに、IKZF1変異がもたらすより悪性度の高い細胞亜集団を同定し、悪性化の標的となる分子経路を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
患者由来のPh+BCP-ALL検体を高度免疫不全マウス(NSG)に移植し、ヒト患者腫瘍組織移植モデル(PDX)を作製後、増殖したPh+BCP-ALLを骨髄より採取し、IKZF1上でDNA結合部位をコードしているExon5(E5)をCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて欠損させた。DNA結合部位を欠損したIKAROSはドミナントネガティブ型として作用することが今までのマウスを用いた研究で知られており、ヒトにおいては、ドミナントネガティブ型の発現がPh+BCP-ALL発症および難治化と相関関係がることが知られている。フローサイトメトリー解析により、変異型マウスの骨髄B細胞(CD19+)では未分化B細胞マーカーであるCD10の発現が低下していることが認められた。CD10はベクターのみを導入したコントロール(WT)5検体、およびIKZF1変異型のPDX由来Ph+BCP-ALL (CD19+)骨髄サンプル8検体に対して集団レベルのmRNA-seq(Illumina)を行った。予備実験では野生型2検体、IKE5変異型3検体を用いて解析を行ったが、新たに野生型2検体、変異型5検体を追加した。予備実験では、474、478の遺伝子でそれぞれ発現上昇、発現低下が見られ、これらのうち、IKZF1変異型によるヒトとマウスモデルで共通に発現上昇が見られる遺伝子としてはABCA1, IL10RA, VCL1, HOXB7, RASGRP3, IKZF1、共通に発現低下が認められた遺伝子としてはリンパ球分化に重要な役割を果たすIL2RA, RAG1, TNFAIP3, SELLなどがあげられたが、現在、新に得られたデータを合わせて詳細に比較解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)新たな遺伝子発現解析結果に基づき、ヒトにおけるIKZF1変異の標的遺伝子を同定し、得られた知見をもとに、それらの標的分子のPh+BCP-ALLにおける機能解析を行う。また、遺伝子発現変化とメタボロミクスデータを合わせたマルチオミクス解析を行い、IKZF1変異型のPh+BCP-ALLの細胞機能特性を解析する。 (2)予備実験によりWTとIKZF1変異型 Ph+BCP-ALL細胞集団の遺伝子発現や代謝物に差が見られる予備結果が得られているが、得られた表現系の違いは細胞特性の違う特定の細胞亜集団からの寄与によるものなのかを検証するため、WTとIKZF1変異型 Ph+BCP-ALLに対してシングルセル遺伝子発現解析を行う。特に、薬剤耐性能に変化が見られた場合は、薬剤投与前後のIKZF1変異型Ph+BCP-ALL細胞集団を比較することで、より悪性度の高い細胞亜集団とそのバイオマーカーを同定することが可能になると考えられる。(方法)WT、IKZF1変異型および薬剤投与後のIKZF1変異型のPDX由来Ph+BCP-ALL骨髄サンプル30,000個に対し、10x Genomicsシステムを用いてsingle cell (sc)RNA-seq ライブラリー作製後、Illumina NextSeq500シーケンサーを用いてシーケンスを行う。得られた遺伝子発現データに対して種々のQCを行なったのちに、クラスタリング解析を行い、UMAP法にて可視化する。これにより、IKZF1変異や薬剤耐性によって新たに出現する細胞亜集団を同定する。その後、集団レベルでのmRNA-seq解析結果と合わせて、遺伝子発現変化を詳細に検証する。
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Causes of Carryover |
今年度は集団レベルでの遺伝子発現解析データを確立することを優先した。来年度のシングルセルレベルでの遺伝子発現解析は高価となることが予想されたので、今年度未使用分は来年度に合わせて使用する予定である。
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