2022 Fiscal Year Research-status Report
白血病細胞の増殖に関与する偽遺伝子の機能解明と新規病態検査法の開発
Project/Area Number |
22K07433
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Research Institution | Tokyo University of Technology |
Principal Investigator |
奥橋 佑基 東京工科大学, 医療保健学部, 講師 (90734715)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 白血病 / 偽遺伝子 / PTENP1 / ゲノム医療 / コンパニオン検査 |
Outline of Annual Research Achievements |
偽遺伝子は「本来の遺伝子に類似した塩基配列で、かつては遺伝子産物をコードしていたと思われるが、塩基が欠損または挿入・重複しているために、遺伝情報が発現しておらず、現在は遺伝子としての機能を消失しているもの」と定義されている。しかし、近年偽遺伝子が新規の生物学的役割を獲得しており、発がんに多面的に関与しているという報告がある。PTENP1は本当に「偽」遺伝子なのか?白血病細胞の増殖におけるPTENP1の機能が明らかになれば、これまであまり注目されていなかった偽遺伝子に対する研究が推進され、新たな分子標的治療への応用や分子生物学的検査法の開発が期待される。 令和4年度は研究実施計画に基づき、PTENP1のsiRNAをエレクトロポレーション装置を用いて白血病細胞内に導入することによってPTENP1の遺伝子発現をノックダウンする研究を実施した。その過程で細胞増殖、細胞周期、シグナル伝達系に関連する蛋白および遺伝子発現への関与について解析した。 その結果、一部の白血病細胞においてPTENP1が機能遺伝子としての役割を獲得して細胞増殖および細胞周期を調節している可能性があることが明らかになった。また、PTENP1は一部の白血病細胞の細胞周期を制御している可能性が示唆された。さらに、 PTENP1のsiRNA導入後, Notch, mTOR, Hedgehog, Wntシグナル関連蛋白に変化がみられたことから, PTENP1が幹細胞の分化, 増殖に関与しているシグナル伝達系と関係があることが示唆された。これらの結果はこれまでの偽遺伝子に対する定説とは全く異なる新たな知見になり得る結果であり、将来のゲノム医療およびゲノム関連検査の発展に寄与し得る研究結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画に基づいた令和4年度の研究により、偽遺伝子であるPTENP1の遺伝子ノックダウンが白血病細胞の細胞周期の調節に関与し、細胞増殖を制御している可能性が極めて高いことが明らかになった。これは当初から予想していた結果ではあったが、以前より偽遺伝子というものは機能を獲得していない遺伝子だと考えられてきていたので、本研究結果はその通説を覆す全く新しい知見である。さらに、偽遺伝子PTENP1が幹細胞の分化、増殖に関与しているシグナル伝達系に作用していることも本研究から確認できた。これにより、細胞周期や細胞増殖への関与の解明だけでなく、PTENP1の分子機序を明らかにできる可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は研究実施計画に基づき、白血病細胞における偽遺伝子PTENP1を過剰発現させて比較検討実験を行う。方法は令和4年度に実施したsiRNA実験と同条件で行い、PTENP1が本当に生物学的機能を獲得していることを確認し、その作用機序を明らかにする。 遺伝子を過剰発現させる材料として非感染性ウイルスであるAAVを用いる。また、細胞内への導入方法はエレクトロポレーション法を計画しているが、電圧やパルス回数などの条件検討を繰り返し、細胞内へ導入できる最も効率的な条件を模索する必要がある。もしうまく遂行できなかった際は、材料ならびに導入方法などを見直す予定である。 これらの結果をとりまとめ, 学会等の規定に従い公表に関する審査申請を行い発表する。
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Causes of Carryover |
国外からの試薬を購入する際、納期まで時間がかかり、年度を超える可能性が生じたため、予算の残金を把握することが困難となり、次年度使用額が生じた。研究は当初の計画通り進行しており、次年度使用額は翌年度分として請求した助成金と合わせて試薬消耗品費として使用する目途を立てている。
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