2022 Fiscal Year Research-status Report
巨大血小板減少症と破砕赤血球症を伴う未知の先天性造血器疾患の原因解明
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22K07921
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
時政 定雄 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (80403187)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱崎 考史 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 教授 (40619798)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 巨大血小板 / 破砕赤血球 / ホスホリパーゼC / プロテインキナーゼC / adducin / F-アクチン / スペクトリン |
Outline of Annual Research Achievements |
われわれは先天的に巨大血小板と破砕赤血球を呈する貧血を伴う未知の造血器疾患を見出した。本例は既知の巨大血小板減少症の原因遺伝子に異常を認めず、エクソーム解析にて、phospholipase Cβ3 (PLCβ3) 遺伝子の異常が確認された。一般にphospholipase Cの働きによりPKCが活性化される。PKCには複数のサブタイプが存在し、赤芽球、巨核球にはともにPKCα、PKCδその他が発現していることが報告されている。また、PKC は血小板や赤血球において adducin をリン酸化し、リン酸化された adducin は F-アクチンとスペクトリンの分離を促して膜骨格に影響するという報告がある。本研究ではまず変異型PLCβ3の巨核球に対する影響がPKC阻害薬によってレスキューされるか検証する。次に血小板と赤血球の膜骨格を患者と正常ヒト細胞で比較する。さらに赤芽球、巨核芽球に分化可能な細胞株を用いてPLCβ3の血球分化における働きを調べ、新たな治療法の創出につなげる。 まず巨大血小板減少症の原因を解析するため、マウス胎児肝細胞にレトロウイルスベクターを用いて変異型PLCβ3を導入し形質転換を行い、分化巨核球の胞体突起膨隆部数が減少することを確認した。本例のPLCβ3 変異は X-Y ドメインの近傍に位置し、機能が恒常的に活性化されることが推定され、実際、変異型PLCβ3は野生型と比べてPKCをより強く活性化することを示す実験結果を得た。次にPKCαとPKCδのそれぞれの阻害薬を用いて、変異型PLCβ3の巨核球に対する影響を評価したところ、PKCδ阻害薬で胞体突起膨隆部数の減少がレスキューされることを示唆する結果を得た。次にα、δ以外のPKCファミリーの阻害薬を用いて評価することを予定している。また、赤血球と血小板の細胞骨格蛋白を蛍光抗体染色するための準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
マウス胎児肝細胞に変異型PLCβ3をトランスフェクションするときに、レトロウイルスベクターを用いて実験を行っていたが、遺伝子導入の効率が不安定で、実験結果にばらつきがみられた。このためプラスミドによるトランスフェクションを計画し、準備のために時間を要した。この方法で再現性が確保できるか確認する。 血小板と赤血球膜に対して抗adducin、抗スペクトリン、抗F-アクチン抗体を用いて蛍光抗体染色を行うため、血小板と赤血球をスライドグラス上にそれぞれ固定した標本を作製するのに時間を要した。続いて抗体反応による蛍光染色を行っている。 HELやK562などの細胞株を用いた分化実験についても準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
PKCαとPKCδのそれぞれの阻害薬を用いて、変異型PLCβ3の巨核球に対する影響を評価したところ、PKCδ阻害薬で胞体突起膨隆部数の減少がレスキューされることを示唆する結果を得た。次にα、δ以外のPKCファミリーの阻害薬を用いて評価する。 ヒト赤白血病由来の細胞株HELは、赤芽球系と巨核芽球系分化マーカーを同時に発現しており、特にPMA刺激による巨核芽球への分化モデルとしてしばしば実験に用いられる。本研究でHELをPMAなどで刺激し巨核芽球系に分化させ、その過程においてPKCファミリーの発現について調べる。 次に正常ヒトと患者血小板を用いて、抗adducin、抗スペクトリン、抗F-アクチン抗体による蛍光抗体染色を行い、血小板膜骨格の状態を比較する。破砕赤血球症を伴う先天性貧血の原因を解明するため、血小板と同様に正常ヒトと患者赤血球を用いて、抗adducin、抗スペクトリン、抗F-アクチン抗体による蛍光抗体染色を行い、赤血球膜骨格の状態を比較する。 また、マウス胎児肝細胞に変異型PLCβ3を導入し形質転換を行い、コロニーアッセイを用いて赤芽球の分化異常を調べる。HELやK562などの細胞株をヘミンなどで刺激し赤芽球系へ分化させ、その過程においてPKCファミリーの発現について調べる。 さらに、より生理的な実験環境を得るため、患者由来 iPS 細胞を樹立して造血幹細胞から赤芽球、巨核芽球への分化の過程で、どこに異常がおこっているか解析する。樹立した疾患特異的iPS 細胞をまず造血幹細胞へと分化させ、その後巨核球 (血小板)、赤芽球(赤血球)への分化を試みる。患者由来のiPS細胞から分化・生成した血小板、赤芽球と、健常人のiPS細胞から作成した細胞で、遺伝子発現プロファイルの差異を評価する。以上より得られた結果をとりまとめ、成果の発表を行う。
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Causes of Carryover |
令和4年度計画では研究協力者の曽我部茉耶はマウス胎児肝細胞への変異遺伝子導入実験を行う予定であったが、年度前半は産休となったため、研究スケジュールにやや遅れが生じた。年度後半には復帰できたものの、赤血球膜、血小板膜の骨格に対する免疫蛍光染色実験の一部を実施することができず、各種抗体購入に用いる予定であった費用に未使用額が生じた。なお令和5年度は研究に専念できており、スケジュールの遅れを取り戻せる予定である。
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