2022 Fiscal Year Research-status Report
Attempt of translational research of cardiovascular disease introducing mathematical statistics
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22K08113
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
吉村 道博 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30264295)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 心不全 / 急性冠症候群 / 共分散構造分析 / ベイズ推定 / ANP / BNP / T1AM |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、当科の膨大な臨床データベースを用いて、各種循環器疾患、特に心不全や虚血性心疾患の病態を臨床的背景などの多彩な修飾因子を加味して統計学的に検討することを目指している。解析には構造方程式モデリングやベイズ推定を積極的に活用している。一方、基礎研究での展開も目指しており、マウスやラットを用いた各種の実験を行っている。総じて、当該研究を「数理統計学を導入した循環器疾患のトランスレーショナルリサーチの試み」 として提案している。 当該年度の成果としては、臨床論文3本と基礎論文2本を報告している。臨床研究としては「急性冠症候群治療中における血小板と白血球のクロストークについて」、「心不全症例群における血行動態指標と血算の関係について」、「心不全症例群のインスリン抵抗性に対するアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤(ARNI)の作用について」であり、基礎研究としては「心筋細胞における蛍光サーモプローブで測定された細胞温度とナトリウム利尿ペプチド発現の調節に対する 3-ヨードチロナミン (T1AM) の影響」、「外因性ANP投与は心筋インスリン抵抗性を改善し、食餌誘発性肥満における虚血再灌流障害を防止する」という内容である。 今後の展開としては、データベースのさらなる整備を目指し、それを利用して臨床で見出された様々な疑問に対して解析を続けていく予定である。具体的には、低酸素症と肺循環・心機能との関連、急性冠症候群と副腎皮質・髄質機能の関連、心不全と栄養との関係などである。基礎研究としては、マウスを用いて低酸素環境の心機能とBNP発現に与える影響について研究予定である。さらには尿酸トランスポーターURAT1の役割のさらなる解明に関する研究である。特にURAT1の心臓での意義について検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では3つの臨床研究と2つの基礎研究の成果を論文で報告した。臨床研究として、①急性冠症候群治療中における血小板と白血球のクロストークについて報告した。急性冠症候群治療中における血小板と白血球(特に好中球)は互いに刺激してその数を増加させることを統計学的に示した。血小板-白血球複合体の形成が凝固活性と炎症を増幅させ、 お互いの血球数を増加させる可能性がある。②心不全症例群における血行動態指標と血算の関係について報告した。心不全において血行学的指標と血算の間に様々な関係性があることを示した。特に左室拡張末期圧の上昇と血小板数の減少に強い関係性があり、肺への圧負荷が血小板産生の場としての肺の機能を妨げている可能性がある。③心不全症例群のインスリン抵抗性に対するアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤(ARNI)の作用について報告した。ARNI の投与は僅か 3 か月という短期間であっても慢性心不全症例のインスリン抵抗性を改善する可能性がある。 基礎研究として、④心筋細胞における蛍光サーモプローブで測定された細胞温度とナトリウム利尿ペプチド発現の調節に対する 3-ヨードチロナミン (T1AM) の影響を報告した。T1AM はMEK/ERK 経路を活性化することにより、蛍光サーモプローブで測定された温度 (推定細胞内温度) を低下させ、心筋細胞における BNP 発現を増加させた。⑤外因性ANP投与は心筋インスリン抵抗性を改善し、食餌誘発性肥満における虚血再灌流障害を防止することを報告した。ミトコンドリア超微細構造の観察から外因性 ANP 治療が心保護効果をもたらすことを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
臨床研究では以下の如く様々な研究を計画している。①低酸素症と肺高血圧・心機能の関連:低酸素性肺血管収縮の病態を調べるにあたり、混合静脈血酸素飽和度との関係性が鍵になると我々は考えており、本研究では肺高血圧症臨床分類(ニース分類)別に詳細に検討する予定である。さらには、低酸素症の右心系と左心系への影響をそれぞれ検討する計画である。②心不全と副腎皮質・髄質機能の関連:急性冠症候群の病態における副腎皮質および髄質機能をアルドステロン、コルチゾール、アドレナリン3分画、そしてACTHやBNPも用いて検討する予定である。緊急入院時と寛解期を比較して検討する。③心不全と栄養の関係:心不全と栄養の関係は極めて重要であるが、日本人のデータは必ずしも多くはなく、長期予後も含めてその解析を行う予定である。指標としてはgeriatric nutritional risk index(GNRI)などを用いる予定であるが、本研究の特徴の一つは時間依存性ROCを描いて検討することである。 基礎研究としては以下を予定している。④尿酸研究:我々はこれまでに尿酸トランスポーターURAT1に関する基礎研究を積み重ねおり、腎臓のみならず脂肪細胞や肝臓における意義を報告しているが、さらに心臓における意義についても検討予定である。⑤低酸素・貧血研究:低酸素誘導因子(hydroxia-inducibiefactor: HIF)は低酸素に対する防御機構を担う転写因子であり、HIF-prolyl hydoroxylase(HIF-PH)により調整される。しかし、HIFの心臓における役割は不明な点が多く、本研究において低酸素環境下を構築して仔ラット培養心筋細胞を用いて検討予定である。低酸素環境やそれに伴うHIFの影響を幅広く調べるが、特にナトリウム利尿ペプチド発現に関する研究を中心に行う。
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Research Products
(5 results)