2022 Fiscal Year Research-status Report
Attempt to reproduce pathophysiology of skin diseases by use of human three-dimensional skin equivalent with regenerated skin appendage structures
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22K08438
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
大山 学 杏林大学, 医学部, 教授 (10255424)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 皮膚付属器 / 立体培養 / 毛包 / 汗腺 / 組織再生 / 皮膚疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、少量のヒト皮膚検体から得られた細胞をもとに毛包、汗腺など皮膚付属器の構造を再現したヒト3次元培養皮膚を効率良く作製し、それをモデルとして用いて、主として表皮と付属器の相互作用の観点から皮膚疾患の病態を再現することである。本年度は、ヒト皮膚組織から分離した毛包、汗腺由来の細胞を生物学的な特性を維持しつつ培養操作で増殖させ、元々それらの細胞が生体内でとっていた立体構造を再現する方法について検討した。また、皮膚疾患の病態を明らかにするための患者検体の集積を行った。 毛包の発生・再生では、毛根の最下部に存在する間葉系の細胞からなる毛乳頭が重要な役割を果たすが、ヒト毛乳頭細胞は生体から分離し培養すると特性を失う。そこで、これまで申請者らが開発した特性維持培養条件に改良を加え、毛発生に重要なWNT、FGFシグナルをこれまでの培養条件以上に活性化する条件を確立し、その条件下で毛乳頭細胞類似の立体構造を作製し毛乳頭のバイオマーカーの発現を検討し、確立した条件では既存の条件より良好に特性が維持されることを見いだした。 ヒト汗腺細胞については安定して大量に細胞を培養する方法が完全には確立されていない。そこで、培養細胞をサポートするフィーダー細胞を培養系に取り入れ、その有無で初代培養確立の成功率の違い、継代培養の安定性について検討しフィーダー細胞を利用した場合に安定した培養が可能であることを確認した。さらに、得られた細胞を二つの異なる方法で立体構造をとらせた場合に汗腺のマーカーの発現が一部回復するが、その様式は方法により異なることが明らかとなった。培養表皮ケラチノサイトと線維芽細胞からなる3次元立体培養系に培養ヒト毛乳頭細胞塊を組み込み立体構造がどの程度再現されるか検討したが培養経過中に立体構造が維持されず別の方法論が必要である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題における最大のハードルは、毛包、汗腺由来の細胞の特性を維持しつつ大量に培養する方法の確立である。「量の確保」に関しては毛包形成に必須の間葉系細胞である毛乳頭細胞、汗腺細胞ともに十分量を培養にて確保する方法論を確立できた。 特性維持に関して、毛乳頭細胞に関しては申請者らが確立した方法を含む、既報の培養条件と比較しても良好に特性を維持しつつ増殖させる方法をWNT、FGF活性化因子を組みあわせることで確立した。また、毛包立体構造の再現に不可欠な立体構造を再構築しても毛乳頭細胞の特性は従来法と比較して維持されていたことより、一定以上の成果をあげることができたと考えている。 その一方で、汗腺細胞に関しては、継代培養にて特性を反映するマーカーの発現が低下しており、さらなる培養法の改善が望まれることが明らかとなった。興味深いことに、そのような細胞であっても立体構造をとらせると一部のまーカーの発現が回復した。また、その回復様式は、低細胞接着培養プレートを用いた場合とハングドロップ法を用いた場合とで異なっていた。これらの結果をうけ、特に立体構造構築法にてさらなる改善が必要である。 申請では2年度以降に実施する予定であった、毛包・汗腺立体構造を再現したヒト3次元培養皮膚実現のための予備実験として、上記の方法で作成したヒト毛乳頭細胞塊をヒト培養皮膚に組み込んだところ、細胞塊の構造が培養操作中に失われた。これより、計画当初考えていた細胞の自律的な器官形成能に依存する方法では立体培養中の構造体の維持が困難であることが想定された。立体培養法について当初の計画より早く再検討する必要があることが明らかとなった。 皮膚疾患の病態解析については、患者皮膚・血液検体の集積に努めつつ、主として免疫組織化学的検討によるサイトカイン発現解析などに着手しておりほぼ当初の計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果から、毛包系、汗腺系ともにさらに特性を維持した培養法・立体構造再現法の確立と、どのようにそれら個々の構造を再現したヒト皮膚培養モデルを実現するかについての方法論を明確化する必要がある。 ヒト毛乳頭に関しては培養操作・立体構造再現の過程で得られた構造体では毛乳頭のバイオマーカーの発現が維持されていることが確認されているが、その発現は均一ではないことも明らかとなっている。つまり、現在確立した培養要件では全ての毛乳頭細胞での特性維持が一律ではない可能性がある。この問題の解決には、特性を維持した細胞を選択的に採取するマーカーの同定と、それを用いた分離法の確立、または、さらに特性を維持する方法を模索する、という二つの方法があるが、おそらく後者の方法をもっても均一な特性維持は困難であると予想されるため、前者のアプローチを特性維持培養前後での毛乳頭細胞での網羅的遺伝子発現解析などを取り入れ試みる。 ヒト汗腺細胞培養については既報も少なくさらなる試行錯誤が必要と考えられる。しかし、本年度の結果から、立体構造をとらせる(細胞凝集させる)と特性を反映するマーカーの発現が一部回復することが示された。これまで考えていた、平面培養による増殖とその後の立体培養再構築というアプローチではなく、細胞外マトリクス内でのスフィア培養などにより立体構造をとらせたまま増殖させる、あるいは毛乳頭細胞で成功したように汗腺の発生に重要なシグナル分子を作用させるなどの方法によって特性維持をはかる予定である。 ヒト3次元培養皮膚での毛包、汗腺構造の再現については、本年度の実験結果から判断するかぎり、研究計画立案当初考えていた方法では実現が困難である可能性が示唆されている。通常皮膚の形態の再現にこだわらず、オルガノイドなどのなかで立体構造を再現し病態を解析するといったアプローチの可能性も模索していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた計画では各種培養細胞から立体構造を作製するための試薬(主として細胞外マトリクス)の予算を計上していた。しかし、昨今の世界的な物流障害の影響を受けたためか、研究年度(2022年度)の後半から、当初予定していた試薬の購入が困難になり、特性が異なり安価である代用品により実験を継続した。そのため経費に余剰が生じた。次年度使用額については、当初購入を予定した物品(すでに発注済み)の購入に充て研究計画に沿って実験を遂行する予定である。
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