2023 Fiscal Year Research-status Report
痛みと進行のリンクに着目した変形性関節症の病態解明
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22K09321
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Research Institution | Clinical Research Center for Allergy and Rheumatology, National Hospital Organization, Sagamihara National Hospital |
Principal Investigator |
大橋 暁 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 外科系臨床研究室, 医長 (20466767)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福井 尚志 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 外科系リウマチ研究室, 客員研究員 (10251258)
津野 宏隆 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), リウマチ性疾患研究部, 医長 (90792135)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 変形性膝関節症 / 痛み |
Outline of Annual Research Achievements |
OAの最大の愁訴は痛みである。しかし今までの多くの疫学研究の結果から、痛みはOAが進行する危険因子でもあることが知られている。この事実から、OA関節では痛みとOAの進行が同一の機序によって同時に生じている可能性が考えられる。そのような機序として今までに明らかになっているものの一つが滑膜病変である。現在までに、主にMRIを用いた疫学研究によって少なくとも膝OAについては滑膜病変の重症度と痛みの程度、OAの進行の間に密接な関連があることが知られている。このため本研究ではOA関節において痛みが生じる機序とOAの進行、すなわち軟骨の変性消失を結び付けるリンクを分子生物学的に見出すことを目的として行われた。 OAでは関節リウマチにおけるパンヌスのように滑膜が直接軟骨を破壊する現象は見られない。したがってOAにおいて滑膜病変と軟骨変性消失を結び付ける因子は関節液中に存在するはずである。このため本研究では膝OAにおいて滑膜性の疼痛とOAの進行を結び付ける因子としてOA関節の関節液中に多量に存在するMMP-1、2、3に着目した。また痛みに関連する因子として、中和抗体がOAの痛みに対して強い抑制効果を示すnerve growth factor (NGF)に着目し、MMPとNGFの関連についてまずOA滑膜における遺伝子発現を解析することで手掛かりを得ようと試みた。研究初年度には膝OAの症例から滑膜組織を採取してこの解析を行い、上記3種のMMPとNGFおよびその受容体TrkAの間に発現の関連があるかを検討したが、両者の間には明確な発現の関連は見られなかった。一方、OA滑膜における遺伝子発現の解析から、血管新生に関連する複数の遺伝子とNGF、TrkAの発現の間に密接な関連が見られたことから、研究第二年度には両者の関連に着目して研究を遂行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度には膝OA滑膜の遺伝子発現の解析を行い、MMP-1、2、3およびNGF、TrkAの発現はいずれもIL-1β、TNF-α、IL-6やそれらの受容体との間に明確な相関がないこと、一方、NGF、TrkAについては血管新生マーカーであるエンドセリン(ET-1)、エンドセリン受容体A(ETRA)、α-smooth muscle actin(α-SMA)の発現レベルとの間に有意の相関があることを見出した。このため2023年度はNGF、TrkAとET-1、ETRA、α-SMAの発現が相関する機序について検討した。コラーゲンゲルを用いた三次元培養で滑膜細胞を維持し、これにOA関節液中に相当な量で存在すると考えられるTGF-βとトロンビンおよびヒト・リコンビナントET-1を添加したところ、α-SMAの発現が明らかに亢進し、NGF、TrkAの発現も亢進する傾向を示した。α-SMAを発現する心筋由来の筋線維芽細胞についてはエンドセリンがNGFの発現を誘導することが知られている。代表者らは三次元培養された滑膜細胞においてもそれに近似した反応を示したと考えており、2024年度にはその変化の詳細を探る予定である。 この三次元培養の実験から、OA関節においてMMPの発現が亢進する機序に関する手掛かりも得られた。我々が検討を行った3種のMMPのうちMMP-1と3の発現レベルの間には強い正の相関関係があったが、サイトカインとの関連が考えにくい結果が得られたことからその発現機序は不明であった。ところが三次元培養された滑膜細胞では単層培養された滑膜細胞に比して、MMP-2の発現には大きな変化はなかったものの、MMP-1と3の発現は著しく亢進していた。我々はこの結果がOA滑膜におけるMMP-1、3の発現機序を示すのではないかと考えており、2024年度においてその詳細を探る予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究初年度の解析結果から、OAの滑膜ではNGFとその受容体TrkAの発現がET-1、ETRA、α-SMAと相関することがわかり、OA滑膜におけるNGFの発現が筋線維芽細胞の分化・誘導に関連して生じている可能性が示された。さらに第二年度に行った滑膜細胞の三次元培養の実験でもその仮説を支持する結果が得られた。NGF、TrkAの発現に関して我々が着目したET-1は、血管内皮細胞が産生するオータコイドの一種で、血管平滑筋の収縮を引き起こして強い昇圧作用を示すことから見出された因子であるが、筋線維芽細胞への分化を誘導する作用もあることが知られている。また最近の研究からET-1はそれ自身が疼痛を誘発する作用もあることが知られている。我々の結果から、OA滑膜において血管新生によって増生した血管の内皮細胞がET-1を産生し、それが直接に、あるいは筋線維芽細胞の出現とそこでのNGFの発現を引き起こすことによって間接的に痛みを引き起こしている可能性が考えられた。研究第三年度ではその可能性について検証と機序の詳細の検討を行う。 また滑膜細胞の三次元培養の実験において、三次元培養された滑膜細胞でMMP-1、3の発現が同時に著しく亢進していた結果は、過去にZena Werbらのグループが報告した線維芽細胞におけるインテグリンを介したMMP-1、3の発現亢進と同じ現象ではないかと考えられた。我々はこの知見はOA関節において炎症によらずにMMPの発現が亢進する機序として重要ではないかと考えている。実際のOA関節では線維芽細胞は関節内に析出したフィブリンの中に遊走していくことが知られている。次年度以降、この病態を模してフィブリンゲルを用いた三次元培養で同様の結果が得られるかを検証するとともに、三次元培養された滑膜細胞においてMMP-1、3の発現が亢進する機序の詳細についても検討を行う。
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Causes of Carryover |
次年度に行う実験については予想以上の研究経費が必要になる可能性があることから本年度の実験経費の一部を次年度に繰り越すことにした。
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[Journal Article] Erratum for Lumbar Fusion including Sacroiliac Joint Fixation Increases the Stress and Angular Motion at the Hip Joint: A Finite Element Study2023
Author(s)
Kozaki T, Hashizume H, Oka H, Ohashi S, Kumano Y, Yamamoto E, Minamide A, Yukawa Y, Iwasaki H, Tsutsui S, Takami M, Nakata K, Taniguchi T, Fukui D, Nishiyama D, Yamanaka M, Tamai H, Taiji R, Murata S, Murata A, Yamada H.
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Journal Title
Spine Surg Relat Res .
Volume: 7
Pages: 199
DOI
Peer Reviewed
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