2022 Fiscal Year Research-status Report
歯科用レジンセメントの通電剥離は万能か-導電性の向上と維持-
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22K10035
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
武川 恵美 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 助教 (50633872)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 歯科用セメント / オンデマンド / 導電性フィラー / 接着 / 通電 / 分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者が所属する研究室ではこれまでに、市販の歯科用グラスアイオノマーセメント(GIC)にイオン液体(IL:常温で液体の塩)を混ぜて導電性を与えた歯科用スマートセメントを開発した。また、これまでの研究から、ILを添加しなくてもGICは硬化直後には導電性を示すが、完全に乾燥させると導電性は消失すること、さらに、乾燥したGICを蒸留水に浸漬すると、導電性は復活し、通電により接着強度が低下することを発見した。以上のGICの導電性の知見を基盤として、歯科用レジンセメントに対して、電解質の添加や導電性フィラーの添加といった手法で導電性を付与し、歯科用レジンセメント(以下、レジンセメント)の通電剥離の可能性を明らかにする。 本研究では、重合反応により硬化する高分子材料であるメチルメタクリレート(MMA)系セメントを使用する。また、これまでに、GICを電解液に浸漬すると水分と電解質の両方を取り込み、蒸留水のみの浸漬と比較して導電性が向上することが分かっている。このセメントは、GICの1/6程度であるが、吸水性を示すといわれている。レジンセメント内部に水の侵入が可能なら、電解液も侵入可能と考えられる。そこで、市販の歯科用レジンセメントを0.9%NaCl溶液に浸漬した時の通電性を調べたところ、蒸留水に浸漬した場合よりも高い電荷密度を示すことがわかった。よって、レジンセメント内に電解質が取り込まれ導電性発現したことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レジンセメント内への電解質取り込みや導電性発現の可能性が示唆されたことで、セメント内に何らかの導電性物質が存在すれば、セメント全体に導電性を付与できることが分かった。本研究は、レジンセメントへの(1)導電性発現の確認(①セメント内への電解液の取り込みの確認、②導電性フィラーの添加)、を行い、導電性が得られるレジンセメントの条件を絞りこみ、(2)通電前後の強度変化の確認、をおこない、レジンセメントの通電剥離の可能性を明らかにする。 初年度では、(1)-①の可能性を確認できたといえ、今後の研究を計画通り進めていくための、順調なスタートが切れたと評価している。よって、進捗状況はおおむね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の計画通りに研究を進めていく。次年度は、レジンセメントに導電性フィラーを添加した時の導電性発現を確認する。工業分野では絶縁性の高分子材料に導電性を付与する素材として、導電性フィラーが幅広く使用されている。導電性フィラーには、金属系、金属酸化物系、カーボン系など様々な種類が存在する。その中から、生体に安全とされる導電性フィラーを選択し、MMA系セメントに添加した導電性複合材料を試作する。生体にとって安全な導電性フィラーである導電性酸化亜鉛は、本セメントに添加する候補の1つとしている。また、導電性フィラーとMMA系セメントマトリックスの界面結合が困難であると予測されることから、接着性モノマーを施し表面改質する。もう1つの候補である導電性ガラスフィラーに対しては、ガラスの表面改質を行うシランカップリング処理を施し、MMA系セメントマトリックスと界面結合させる。導電性フィラーは添加量が多いほど、導電性向上の可能性は高まる。しかし、導電性フィラーの体積比率が高いと薄く広がらず、セメントには不適なので、そのバランスのとれる範囲の体積比率で評価する。
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Causes of Carryover |
初年度は、試料の作成方法及び実験方法の試行錯誤に労力を割くであろうことを見越して多めに試料の材料費を計上していた。幸いにもスムーズに研究を立ち上げることができたので、次年度使用額が生じてしまった。次年度は実験条件数が増加し、申請時の計画以上に試料が必要となるため、翌年度分として請求した研究費と合わせて使用する予定である。
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