2022 Fiscal Year Research-status Report
環境中での薬剤耐性菌の制御に向けた,原生生物のバイオフィルム捕食作用の評価
Project/Area Number |
22K12404
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
小林 由紀 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (80759457)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 健太 山口大学, 共同獣医学部, 准教授 (20582208)
度会 雅久 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (40312441)
松井 一彰 近畿大学, 理工学部, 教授 (40435532)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 薬剤耐性菌 / 原生生物 / ESBL産生菌 / Paramecium / ゾウリムシ / 捕食 |
Outline of Annual Research Achievements |
【背景・目的】薬剤耐性菌は世界的に重要視されている公衆衛生上の問題の一つである. 薬剤耐性菌を減らす方法として,本研究では,環境に負荷を与えない 微生物ループの視点から,細菌の捕食者である原生生物を用いた捕食による薬剤耐性菌除去に着目した. 【方法】2種の繊毛虫 (Paramecium caudatum dCRT14b, Paramecium multimicronucleatum Y-2) と3種のESBL産生菌を用いて, ESBL産生菌に対する繊毛虫の捕食能力, 消化能力を評価した. さらに, 温度が捕食能力, 消化能力に影響を与えるか検証した. 【結果】2種のParameciumの捕食率は, 24時間後に全ての菌で90%を超えており, 捕食効果を確認した. Parameciumの食胞内での消化を評価するため, 2種のParameciumのGFP含有食胞のLysoTracker陽性率を比較した結果, 2種ともに消化が確認され, 陽性率はP. multimicronucleatum Y-2のほうがP. caudatum dCRT14bよりも高値を示した. Parameciumから排出された薬剤耐性遺伝子を検出するため, 細胞外DNAをリアルタイムPCRで解析した結果, 薬剤耐性遺伝子CTX-M-15の相対値は, P. multimicronucleatum Y-2では非存在群に比べて有意な減少を認めた. しかし, P. caudatum dCRT14bでは, 培養1日目の存在群において, 非存在群に比べ相対値が増加していた. 【考察】2種のParameciumはESBL産生菌を捕食消化することを明らかにした. さらに, P. multimicronucleatum Y-2は薬剤耐性菌だけでなく, 薬剤耐性遺伝子まで効率よく消化することも示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
薬剤耐性ESBL産生菌を2種の原生生物による室内実験により,薬剤耐性菌が原生生物により捕食されるだけでなく,耐性遺伝子をも消化することが,形態的にも分子学的にも証明できた.先行研究により,Parameciumの種類にはLegionellaを消化するということは明らかにされていたが,薬剤耐性菌の消化については明らかにされていなかった.また,原生生物の捕食実験にて,25℃から30℃に上げると捕食効果が減少することも示された.この結果は,温度上昇が原生生物の耐性菌捕食率を下げる可能性を示唆しており,温暖化による耐性遺伝子の減少に影響を及ぼすことが示唆された.これらの結果は,2023年3月の日本細菌学会で,ポスター発表を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で原生生物が薬剤耐性菌を捕食し耐性遺伝子を消化することが示されたが,今後は,捕食した原生生物のDNAに捕食した耐性遺伝子が組み込まれていないか,また,原生生物の種類によって,耐性菌の捕食消化に違いが見られた原因(捕食選択性)について解明する.このことは,薬剤耐性菌を自然界に負荷をかけず耐性遺伝子を消化させることを実現させるだけでなく,一旦できてしまった耐性遺伝子が,捕食者の中で生存し続けるのかどうかを明らかにするものである.また捕食選択性を明らかにすれば,効率よく耐性遺伝子を原生生物によって消化する応用法が開発できる.さらには,原生生物が細菌をキャッチする受容体の有無についても解明する.現在,細菌に対する受容体は,細菌,ウィルス,寄生虫などでは明らかにされているが,原生生物については先行研究が乏しい.原生生物の細菌に対する受容体を明らかにすれば,薬剤耐性菌に対して受容体を持った原生生物を応用し,耐性遺伝子を自然界で減らすことが可能になると考えている.
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Causes of Carryover |
予定より試薬費が安価で購入できたため
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