2022 Fiscal Year Research-status Report
ジェンダー視点が拓くフェアトレードの可能性と未来:ウガンダを事例に
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22K12553
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岡本 由美子 同志社大学, 政策学部, 教授 (00273805)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | サステナブル認証 / フェアトレード / ジェンダー平等 / 女性のエンパワメント / SDGs / 社会的インパクト評価 / 気候変動 / レジリエンス |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、以下、3つの事を行った。まず第1に、「フェアトレードの介入の直接効果」についての調査を開始する前に、そもそも、フェアトレード(認証制度)がSDGs達成に果たし得る学術的意義を明確にした。まずはその成果を論文にして発表した。 第2に、ウガンダ小規模有機農家組合の組合長(GM)と女性コーヒー農家さんへのインタビュー、及び、アンケート調査を基に、「フェアトレードの介入の直接効果」を明らかにした。その結果、フェアトレードが定めている基準の存在は重要ではあるものの、ジェンダー平等化や女性エンパワメントにおいてはそれぞれの組合の取り組み方が決定的に重要であることが明らかとなった。かつ、女性が組合員になってフェアトレードに参加する場合と、組合員の配偶者として間接的に組合活動に参加するのでは、フェアトレードの社会的インパクトは異なる可能性があることも同時に明らかとなった。この研究成果は、ドイツのチュービンゲン大学で開催された国際会議で発表した。ただし、本研究結果は、コロナ禍で行われれた、サンプル数が限られた調査結果に基づくもので、更なる調査が必要であることは言うまでもない。 第3に、当初の計画に加え、フェアトレードの効果を考える上で、ジェンダーと共に、気候変動リスクへの考慮が必要か否か、についても研究を行った。近年、ウガンダでは、疫病よりも気候変動による洪水被害が多発しているが、気候変動の影響は一般的にはジェンダー中立的ではないことが知られている。今年度の調査結果より、本研究が調査対象としているウガンダ小規模有機農家組合も例外ではないことが明らかとなった。したがって、フェアトレードの推進はジェンダーとともに気候変動リスクへの考慮もまた不可欠であることがわかった。その結果をもとに、論文を1本、執筆をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本科学研究費研究課題は、アラビカ種のコーヒー産地として有名なウガンダ東部のムバレ地域にあるブフンボ有機コーヒー農家組合(BOFA)を対象として行われている。残念ながら、今年度、研究が当初の計画通りに進展しなかった。その主な理由は、大洪水の発生である。 2022年度、7月下旬から8月上旬にかけて、本地域において過去に例がない程の大規模な洪水が発生し、2017年度以降、本組合が取り組んできた女性エンパワメントの社会的インパクト評価の実施方法を変更せざるをえなかった。フェアトレード組合であるBOFAの独自な取り組みによる女性エンパワメント効果は無視できないことはすでに筆者の研究から明らかとなったが、気候変動はジェンダー中立的でないことは知られている。したがって、フェアトレードが契機となって女性エンパワメントが進展し、社会課題の一部が解決されるようになった一方、その同じ女性が気候変動に端を発する洪水の発生によって、女性が男性以上に犠牲となっている可能性が出てきた。つまり、フェアトレードもジェンダー平等達成のみならず、気候変動に対するレジリエンスを特に女性組合員に対して高めていく必要性が考えられる。 したがって、2022年度は、BOFAの10ゾーンのうち、2017年以降、もっとも女性コーヒー農家の参加率が高くなった地域であるJeva Lower地区(ゾーン1)のおよそ90名程度の組合員を対象にアンケート調査を実施し、フェアトレードの組合員であるコーヒー農家の気候変動に対するレジリエンスについて男女間で比較した。当初は60名に対してのみ、2022年12月にアンケート調査を実施し、論文を1本、執筆した。しかし、洪水の状況が落ち着いてきたため、さらに、30名程度のアンケート調査を2023年3月に現地で実施し、ゾーン1ほぼすべてのBOFA組合メンバーに対してアンケート調査を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下のように、本研究課題の研究を推進する予定である。2023年度はまず第一に、22年の研究成果を基に論文にまとめ、23年8月締め切りの『同志社政策科学研究』の特集号(サステイナビリティ共創プログラム-SDGsとジェンダー)に掲載を予定している。22年度、すでに“Climate Change and Gender: How Can Fairtrade Contribute to the Buildup of Resilience”と題した論文を執筆している。しかし、23年3月の現地調査によりサンプル数が増加した結果、Jeva Lower地区(ゾーン1)すべての組合員のアンケート調査を基に解析を行うことができるようになった。したがって、新たに論文を1本執筆する予定である。また、その結果は国内外の学会等で発表をする予定である。 さらに、23年度は、BOFAにある10地区のうち、今回調査を行ったゾーン1以外で、フェアトレードによって女性エンパワメントが進み、かつ、22年度の大洪水の影響を受けたゾーンを1つ抽出する。フェアトレードへの参加の有無が新型コロナウイルスや大洪水の影響に対するレジリエンスを高めているのかどうか、かつ、フェアトレードに参加しつつも、男女間でのレジリエンスの差は大きいのかどうか、について探る。これによって、グローバルリスクに対するフェアトレードの社会的インパクトを把握するとともに、グローバルリスク対応においてジェンダーの視点が不可欠かどうか、必要な場合はどのような対策が必要なのか、さらに調査を行っていく予定である。 24年度は23年度の調査結果を英語論文にまとめ、国内外の学会で発表を予定している。コメントを受けて、さらに必要な現地調査をウガンダで行う予定である。25年度は英語論文で最後の論文を書き上げ、査読付き雑誌に投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
2022年度、研究初年度に本研究課題の研究対象地域であるウガンダの東部地域で大洪水が発生をしたため、現地調査の開始が遅れ、かつ、当初、計画をしていた規模での現地調査が行えなかった。それにともない、国内での調査やその調査結果を基にした研究成果の発表が遅れてしまったことが原因である。 2023年度に使用額が生じた分については、2022年度に遂行できなかった現地調査(海外渡航費、及び、委託調査費)に当てる予定である。
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