2022 Fiscal Year Research-status Report
20世紀初頭の大阪及び大阪近郊における遊園地開発史に関する基礎的研究
Project/Area Number |
22K12630
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Research Institution | Otemae University |
Principal Investigator |
海老 良平 大手前大学, 現代社会学部, 准教授 (10880479)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 遊園地開発 / 甲陽園 / 関東大震災 / カフェーパウリスタ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は20世紀初頭の大阪とその周辺各地に見られた近代的遊園地の萌芽、及び郊外遊園地開発の経緯を明らかにすることであり、私鉄・地元資本家・産業資本家の各主体のレジャー・娯楽事業の展開について考察するものである。実施にあたっては関係史料の調査・収集とその検討、現地での聞き取り調査、学会や研究会での報告と論文執筆、の三つの柱で行う。 2022年度は大阪都市部における初期の遊園地、私鉄系遊園地に関連する文献、史料の調査・研究を行うことを研究計画とした。2022年度の研究実績は以下の通りである。なお、甲陽園遊園地の研究は当初の計画では2023年度に行うものであったが、次の【現在までの進捗状況】で挙げた理由から、先行して甲陽園の研究にあたった。したがって、2022年度の実際の研究活動として、地元での文献等の調査を中心に、それに加えて、下記の(2)の学会報告の際に新たに関係を築くことができたカフェーパウリスタの幹部への聞き取り調査等を行った。 (1)ミネルヴァ書房発行の『入門観光学改訂版』の執筆:本研究に重ねて関西の初期の遊園地開発の関係史料の再検討を行った。本稿は2018年に出版した同書の改訂版であり、本研究の主題である20世紀初頭の遊園地ビジネスの嚆矢となる郊外遊園地の誕生に言及した(2023年夏刊行予定)。 (2)甲陽園遊園地についての学会報告:2022年11月開催の「居留地全国大会in長崎」(長崎大学)においてカフェーパウリスタと甲陽園遊園地について報告を行った。 (3)神戸新聞総合出版センター発行の『関東大震災と神戸・阪神間』(共同執筆)の執筆:研究方法としては主に地元での文献調査によるものである。主題は関東大震災発生時の神戸・阪神間の描写と首都圏との関連性についてであり、本研究代表者は甲陽園についての執筆を担当する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は大阪都市部における初期の遊園地、私鉄系遊園地に関連する文献、史料の調査・研究を行うことが当初の研究計画であった。この計画との関連においては、2018年に刊行した『入門観光学』の改訂版の執筆依頼があったため、執筆に関連する箇所としての明治、大正期の遊園地と内国博覧会との関連について再検討することに止まった部分もある。つまり、新たな文献調査というよりは、これまでの文献等の再検討にあたったということである。しかしながら、先述の通り、2023年度の計画であった甲陽園遊園地の調査・研究を先行して行うこととなった。その理由として、外国人居留地全国大会での報告(主題「神戸と珈琲」)、また2023年秋に『関東大震災と神戸・阪神間』の出版が決定したことが挙げられる。 まず、前者の学会報告においては、甲陽園遊園地の開発にあたった本庄京三郎が社長を務めたカフェーパウリスタと甲陽園及び阪神間の関連について主題としたが、報告にあたって、現存しない甲陽園店の一部建材が残る神戸の日伯協会での取材などを行った。さらに学会報告の際に、カフェーパウリスタを現在経営する幹部(日東珈琲会長)と知り合うことができたため、学会後に聞き取り調査も行うことができた。 また、後者の出版内容においては、関東大震災が発生した1923年から100年を迎える2023年に阪神間と関東大震災の関わりを主題に、大手前大学の研究者や地域研究者とともに共同執筆するものである。2022年度はこの出版に向けての準備にあたり、本研究代表者においても担当する甲陽園地区の当時の状況を地元の市役所資料室や図書館等で文献調査を行った。執筆は2022年度中より開始しており、刊行は2023年9月の予定である。 以上が現在までの進捗状況であり、調査研究の順序が前後していることもあるが、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は初期の遊園地をめぐる大阪における資本家ネットワークの解明、私鉄系遊園地の再検討をさらに深く着手する。加えて研究予定である香櫨園遊園地に関する文献調査を実施しつつ、昨年度の甲陽園研究において関係を築くことができたカフェーパウリスタの歴史、特に箕面、宝塚での展開の未知の部分について、再度カフェーパウリスタの幹部への聞き取り調査を行っていく。 本研究と珈琲では一見脈絡がないように見えるが、大正時代のカフェの先駆けとなったカフェーパウリスタの嚆矢は阪神間の遊園地開発地区(箕面、宝塚、甲陽園)での出店であったこと、大阪カフェーパウリスタの経営にあたったのが甲陽園遊園地を開発した本庄京三郎であったことなど、初期遊園地との関連性は深いものがある。また当時、時代を先取っていたカフェは遊園地等の娯楽空間の一部分を担うピースであり、それらの店舗が郊外遊園地の初期段階でどのような関わりを持っていたかという点においては、研究の意義は大きい。加えて、カフェーパウリスタが展開した箕面、宝塚、甲陽園は特に阪急沿線の遊園地開発地域でもあり、阪急・宝塚歌劇創立者の小林一三とカフェーパウリスタ創業者の水野龍との関係性についても、大正期のレジャー開発をめぐる人的ネットワークを解明する意味において非常に重要であると考えられる。 一方で、2022年度の研究においては残存する文献等の資料が非常に少なかったことを改めて実感することとなった。実際の調査にあたっては当時の新聞記事や雑誌等を手掛かりにすることが主であったが、大学の立地性を活かして地元での聞き取り調査の対象となる住民や調査機関の協力関係のさらなる発掘が必要であると考えている。
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Causes of Carryover |
2022年度は主に2023年度に研究予定であった甲陽園遊園地研究を先行して行ったため、地元での調査が主となった。これについては、甲陽園の調査対象が市役所所蔵の史料、図書館での新聞、雑誌等となり、当初予定していた文献の購入も少なかった。しかしながら2023年度は前年度で購入できなかった初期遊園地、私鉄系遊園地に関連する文献や史料等を購入していく予定である。また、同じく地元での調査が主となったことで、当初予定していた東京出張の回数も1回のみであったことも旅費が少なかった理由である。しかしながら2023年度は研究調査のための出張も計画通り行う予定であり、さらに新たに調査の対象となった遊園地とカフェーパウリスタに関する聞き取り調査のための東京出張も行う。以上において使用できなかった物品費、旅費を2023年度に回したことが、次年度使用額が生じた理由である。なお、2023年度の使用計画については以下の通りである。 物品費:初期の遊園地、私鉄系遊園地に関連する書籍、絵葉書やパンフレット等の史料の購入。 旅費:大阪及び近郊での行政機関、図書館等での調査費用。東京での調査のための出張費用(国立公文書館等での調査、カフェーパウリスタに関する聞き取り調査費用)。
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