2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K12673
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
吉田 亨次 福岡大学, 理学部, 准教授 (00309890)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 深共晶溶媒 / X線回折 / NMR / 偏極中性子回折 |
Outline of Annual Research Achievements |
塩化コリンに尿素またはグリセロールを混合させた深共晶溶媒(DES)を合成し、それらに水を混合した系の液体構造について調べた。DESはイオン液体と同様にイオンからなる液体であり、DESの濃度が低い状態では、通常の電解質水溶液と同じ挙動を示す。しかし、本研究で用いたDESは水と任意の組成で混合するため、DESの濃度が高い状態では水分子が単分子状に存在しており、新奇な液体構造を形成していると考えられる。 二種類のDES(塩化コリン+尿素および塩化コリン+グリセロール)と水の混合系について、DES組成を広く変化させてX線回折測定を行った。DESの量が増加するつれて、水の構造が壊される過程が明らかになった。水の構造が壊れ始める組成は二種類のDESで差はなかった。この液体構造の変化とタンパク質の構造変化との関連を調べていく予定である。また、DESー水混合系における水分子のダイナミクスの測定も行った。17O NMRスペクトルの水のピークに対して、Inversion Recovery法により縦緩和時間を測定した。DESの組成に対する水分子の回転運動は水の構造が壊れると非常に遅くなることが明らかになった。 水素原子の中性子非弾性散乱断面積は大きいため、水素原子を多く含んだ系の中性子回折実験ではバックグラウンドが高くなり、構造解析が困難である。深共晶溶媒は水素原子を多く含んだ分子性液体であり、中性子回折を測定するためには試料を重水素化することが望ましい。しかし、有機化合物の重水素化には大きなコストがかかり、一般的に普及する方法とは言えない。そこで、重水素化しない試料について中性子回折が可能な偏極中性子回折を試みた。フランスのラウエ・ランジュバン研究所において、電解質の軽水溶液の偏極中性子回折を行った。十分な測定時間を確保することにより、精度の高い構造情報を含む散乱データが得られた。現在、解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
DES-水混合溶媒中のタンパク質のX線小角散乱測定を行ったところ、DESの濃度が増加するにつれて、タンパク質の散乱強度が大きく減少し、タンパク質の構造情報を得ることが困難であることがわかった。これは、DESのX線吸収が大きいことやタンパク質がアンフォールドするに伴い、溶媒がタンパク質内部に侵入し、溶媒とのコントラストが減少したためと解釈した。実験室系X線小角散乱測定を使用していたため、入射光強度の限界と考えられる。したがって、今年度の計画を来年度に延期し、放射光X線による小角散乱測定を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
中性子準弾性散乱を測定し、DESと水の混合系に対してDES分子や水分子のダイナミクスを測定し、液体構造に関する知見を得る。 放射光によるX線小角散乱測定を実施し、DES水溶液中のタンパク質の構造を測定し、生体分子に対するDESの影響を明らかにする。
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Causes of Carryover |
中性子散乱実験および放射光X線散乱実験を次年度の計画として先送りにしたため、次年度使用額が生じた。これら外部施設ににおける実験を本年度に実施する予定である。
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