2023 Fiscal Year Research-status Report
In-silico Analysis of Adverse Reaction of Iodinated Contrast Media and Visualization of Carcinostatic Agent in Endovascular Therapy
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22K12764
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
今井 國治 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20335053)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 啓輔 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (40469937)
川浦 稚代 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (60324422)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 抗がん剤可視化 / 単色X線CT画像 / 肝動脈化学塞栓療法 / シスプラチン / コンパートメントモデル / 薬物動態解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、量子ノイズと呼ばれるX線光子に由来するノイズを考慮した際に、抗がん剤が可視化できるかをシミュレーション解析した。 本研究では白金製剤の一つであるCisplatin(CDDP)を解析対象とし、肝動脈化学塞栓療法をもとに検討した。この治療法をシミュレーションする上で、重要となる点はCDDPの薬物動態特性である。そこで、この抗がん剤の添付文章を精査したところ、血中濃度の推移は二相性であることが示されていた。このことから、肝細胞がん内のCDDP量は2-compartmentモデルで推定可能であると考えられ、これをもとにCDDPの薬物動態を支配する物質収支式を構築した。その際、CDDPの投与条件はレジメンに従うこととし、これを初期条件とした。さらに、この方程式を解く上で重要となる損失速度係数は、添付文章に記載されているα及びβ相の薬物動態パラメータから推定した。その結果、添付文章に示されている排泄系の薬物動態特性が再現でき、肝細胞がん内のCDDP量が精度よく推定できることを確認した。このようにして推定したシスプラチン量を上腹部数値ファントム内に作成した肝細胞がんに注入し、80keVの単色X線を仮想的に照射した上で、各時相における肝臓CT画像を取得した。また、比較のため、管電圧120kVの連続X線についても同様のシミュレーションを実施した。 単色X線を数値ファントムに照射した場合、CDDP投与前では、肝細胞がんは周辺の肝実質よりも黒くなっていたが、CDDPの投与を開始すると徐々に白く染まり、投与開始5時間後に最も白くなることが視認できた。これに対し、連続X線CT画像では、肝細胞がん内のCDDP量が最大になっても、視認は困難で、CDDP投与前の画像との相違はほとんどなかった。以上の結果から、シミュレーション上、単色X線CT画像であれば、CDDPの可視化が可能であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、CT画像による抗がん剤の可視化について検討を行い、申請時に計画した通りに実施できている。 このシミュレーション解析の主な成果は、単色X線画像であれば、CDDPの可視化が可能であることであり、臨床的に有益な知見を提供できたと思われる。さらに、ノイズの増加と共にCDDPが視認し難くなることも明らかにしたが、対象としたノイズが量子ノイズのみであったため、臨床画像上のノイズとは、若干異なっており、違和感を覚えた。実際の臨床画像上のノイズは、構造ノイズや電気ノイズと言った成分も含まれている。このことから、これらの成分を考慮した上で、検討する必要があると思われる。そこで申請者は、構造ノイズ、量子ノイズ及び電気ノイズに基づくノイズの理論式を構築した。この理論式はX線検出器に入射する光子数を変数としているため、臨床画像上のノイズをシミュレーションすることが可能である。実際、この理論式を用いてノイズ解析を実施したところ、これら三種類のノイズ特性が評価できることを確認している。また、今回、CDDPの可視化に成功したCT画像には、信号の不鮮鋭さも考慮されていない。これについても、確率微分方程式に基づく理論式を構築し、不鮮鋭度を示す未知の関数の定式化も行った。(国際論文誌に掲載)以上のことから、来年度以降、これらの理論式に基づいて検討を行っていく予定である。 本報告では、CDDPの可視化について検討したが、本申請研究では、造影剤による副作用の一つである血圧低下の機構解明もテーマとして掲げている。これについては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)と造影剤分子との相互作用を分子動力学的に検討している。その結果、造影剤分子はACE阻害薬であるCaptopril(高血圧治療薬)と類似した挙動を見せた。現在はその詳細について定量的に検討している。 以上のことから、本申請研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度の進捗状況を踏まえ、以下の検討を行う予定である。(1)造影剤分子とACEの相互作用に関する分子動力学解析、(2)画質劣化要因を考慮したCDDP可視化に関するシミュレーション解析。 まず、項目(1)についてであるが、「現在までの進捗状況」で述べたように、造影剤の副作用である血圧低下について検討する。この解析で対象とする造影剤は、iomeprol、ioversol及びiohexolである。これらの造影剤は、蕁麻疹等のアレルギー反応において、交叉反応を頻繁に起こすことが多数報告されているため、血圧低下においても、交叉反応が起こる可能性があると考えられる。また、iohexolは親水性側鎖に2つの不斉炭素を有しており、鏡像異性体は重篤な副作用を惹起し易いことを考慮すると、交叉反応を含め、これらの造影剤の特性を明らかにすることは、臨床上重要である。 次に、項目(2)についてであるが、ノイズの理論式及び不鮮鋭関数をもとに画質の劣化要因を検討し、臨床画像に近い状態で、CDDPの可視化について検討する。これを実施するに伴い、予備的な検討を行ったところ、不鮮鋭関数によって非常に高い精度で、不鮮鋭さが再現できることを確認している。そこで、実際の検討では、鮮鋭な画像を取得後、不鮮鋭関数によって、肝細胞がん像を不鮮鋭にすると言う操作を行う予定である。また、ノイズに関しては、ノイズの理論式に基づいて、構造ノイズ、量子ノイズ及び電気ノイズに分解し、X線線量に対応したノイズを考慮することで、臨床画像上のノイズは再現できると考えている。以上のことから、これらの処理を施せば、臨床画像に近い画像が取得でき、適切な画質評価を行うことによって、更なる知見が得られるものと思われる。 これらの項目で得られた研究成果は、随時、国内外で開催される学会及び国際会議で発表し、最終的には投稿論文として世界に発信する。
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Causes of Carryover |
申請時の計画では、学会発表のための出張費を予定していた。学会発表については、現地(東京、大阪、広島)で開催され、予定通り交通費及び宿泊費として使用したが、前年度の繰越金が、そのまま今年度の残金となったため、次年度の使用額となった。次年度は、この繰越金と2024年度基金をもとに、更なる研究促進に使用する予定である。具体的には、(1)国内外で開催される学会・研究会・シンポジウム・国際会議に積極的に参加し、この2年間の研究成果を発表すると共に、研究促進に必要となる情報収集に努める、(2)この期間内で得られた研究成果を学術論文としてまとめるため、英文校閲費に充てると共に、世界にその成果を素早く発信することを目的に、オープンアクセスジャーナルに投稿する予定である。それゆえ、投稿料及び掲載料が必要となってくることから、これらに充当する予定である。(次年度は、特に、項目(2)を中心に行っていく予定である。)さらに、不測の事態として、シミュレーション計算等に使用しているコンピュータ(本申請で購入したコンピュータ以外のものも使用して、計算の高速化を図っている)が使用不可能になった場合、研究推進上の問題となるため、コンピュータの購入費として充当する。これに関連して、シミュレーション結果を収納する電子媒体の容量が、想定以上に必要となっている。それゆえ、研究の進捗状況を見据えて、新たな電子媒体を購入する。
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