2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K13038
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
閻 紹ショウ 九州大学, 人文科学研究院, 専門研究員 (10889984)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 枕草子 / 平安物語 / 和歌 / 前田家本 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1年度である2022年度は、主に『枕草子』が平安後期文学へ与えた影響の用例の収集について以下の成果を得た。 ・平安後期物語が『枕草子』の影響を受けた用例の先行研究をまとめ、諸作品の注釈書を活用し、また『狭衣物語』における新用例の発見もあった。また、諸作品の伝本性質に応じて、本文の改変を特に注意を払い、諸伝本によって『枕草子』の受容態度の異同があるかを確認し、異同がある例に対してその変遷を解明した。 ・『枕草子』と同時代までの和歌においては、完全に合致する用例は見出だし得ないようであるが、『枕草子』の表現における斬新さは次代の和歌の姿を先取したものであり、そうした傾向は新奇な表現を好んだ曾禰好忠や河原院周辺歌人の詠に、『枕草子』との近似性を窺いうることと軌を一にしている。また、好忠をはじめ河原院周辺で明確に意識され始めた漢詩的手法による和歌の詠法が、道済、嘉言を経由して能因に継承され、さらに彼を繋ぎ役として和歌六人党周辺に流れ込んでいた。ゆえに、『枕草子』の世界に相通ずる清新な歌境を開拓した能因、相模、和歌六人党より院政初期に至るまでの後続の歌人詠と『枕草子』の表現とには類似性を調査した。以上より、『枕草子』の影響を受けた和歌の例も収集した。注意する語や表現については、さらに詳しく影印本で確認する作業が必要です。これらの多くは未だ成稿には至らないものの、今後公表を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平安後期物語と和歌が『枕草子』の影響を受けた用例の収集はほぼ完了しており、特に諸作品の伝本性質に応じて、諸伝本によって『枕草子』の受容態度の異同を確認した。全体としては当初の実施計画に沿った進展を見せているものと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
『枕草子』の影響と思われる用例が実は他作品からの影響を受けた用例があるため、第1年度収集した用例と『枕草子』以外の作品例えば『古今和歌集』などとの影響関係を調査し、必ずしも『枕草子』から影響を受 けたとは言えない用例とを区別する。 また、平安後期文学作品へ影響を与えた『枕草子』の該当章段を抽出して、関係する『枕草子』の章段の諸伝本(三巻本、伝能因本、堺本の第 I、第 II 類本、前田家本)を対比、影響関係を確認し、その本文改変の過程を明らかにすることを寄与する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、当初閲覧または複写物の取り寄せを予定していた資料についての調査が中止となることより、論文執筆用の図書、道具購入などに予算内訳を変更し若干の残高が生じている。当初予定の調査については次年度に実施するため、全額を問題なく使用できる見込みである。
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