2022 Fiscal Year Research-status Report
Literary Representations of the Bakumatsu and Meiji Restoration in the 1920s and 30s
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22K13044
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
栗原 悠 早稲田大学, 国際文学館, 助教 (00895071)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 日本文学 / 歴史小説 / 幕末-明治維新期 / 1920年代 / 1930年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題を開始した二〇二二年度については、当初の研究計画にも記載していた通り島崎藤村の長篇小説・「夜明け前」(一九二九-三五)の調査・分析に充てた。これによって、結果的にテクストを二つの方向から検討することが出来た。 (一) 従来は同時代のマルクス主義者たちが関わった日本資本主義論争との関係から解釈されることが多かった「夜明け前」における経済史観を、藤村の林政史に関わる蔵書への書き込みや折り込みなどから再検討し、尾張藩(尾張徳川家)への肯定的な評価と連関する自由経済への志向を看取し得た。この成果としては、「夜明け前」における経世済民観 徳川時代の林政史評価を補助線として」と題して島崎藤村学会で報告を行った。 (二) (一)と関連して階級的観点からプチブルジョワ的な存在として評価されてきた「夜明け前」の主人公およびその一家を、近年の歴史学における近世-近代の過渡期における自治体研究などの知見を踏まえつつ、行政的な〈代理人〉として読み直す理路を見出し得た。 この成果としては、「『夜明け前』を読む 挫折する国学徒/無能な〈代理人〉としての青山半蔵」と題して長野県小諸市で講演会を行った。 「夜明け前」は一九二〇-三〇年代における幕末-明治維新期をテーマとしたテクストのなかでも非常に反響が大きいことから、これについて評価軸が作れたことによって、今後の同時代の諸テクストを分析していくにあたり有効な見取り図を得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題はおおむね順調に進展している。理由は以下の通りである。 (一) まず「夜明け前」については、雑誌『中央公論』誌上に五年余りの期間連載されていたというテクストそれ自体の分量に加え、単行本と連載初出、そして直筆原稿の間における細かな異同の確認など整理しておかなければならない情報の多さ、あるいはまた同時代評、先行研究などの充実といった議論の前提条件から、それらを精査し、まとめていく作業にはかなりの時間が必要になることは研究課題の構想段階から予想されていた問題であった。 このため、早い時期から作業の優先順位を決めて着手してはいたものの、年度の前半はまだ COVID-19の影響が大きく、遠方への調査などについても所属大学による行動制限が続いていたため、資料調査を当初予定していた時期よりも数ヶ月分後ろ倒しする形になってしまった。議論の準備は既に終え、得られた知見を学会および市民向けの講演会で報告するところまでは年度内に進められたが、論文を公開するという段階にまでには至らなかった。ただし、一〇〇人近い一般の聴講者が来場した講演会で研究の知見を発信出来た点は、直接的な成果とは言えないものの、社会的には相応に意味があるものとなったと考える。 (2) 一方、「夜明け前」については論文一本分の議論が用意出来れば十分だろうと想定していたが、結果的には二つのテーマが得られた点は非常に大きな成果だったと言える。いずれもおそらく次年度には公開出来るものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
二〇二二年度の研究成果を足がかりとして、まずは「夜明け前」と関係の深いテクストや論者を分析の対象として引き続き調査を行っていく予定である。また本年は関東大震災から一〇〇年の記念年ということでこれについて検証する議論が多く出てくることが予想される。一九二〇-三〇年代に幕末-明治維新期への注目が高まった要因の一つは、そうした震災による過去の資料の喪失や散逸などがあったので、この問題にも目を向けながら論文に取り上げることも考えている。さらにここ一年の間に歴史学においても幕末-明治維新期に関する研究成果が増えてきているので、そうした知見を適宜取り入れつつ同時代への理解を更新しながら研究課題を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
当初、「夜明け前」の関連資料調査をさらに行う予定であったが、年度前半に行けなかったためにスケジュールにズレが生じ、回数が減ってしまった。論文の修正作業を行う今年度に時期を調整して改めて調査に行く予定である。
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Research Products
(2 results)