2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K13045
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田部 知季 早稲田大学, 文学学術院, 講師(任期付) (70846419)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 地方俳誌 / 明治俳句 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は資料調査と、それに基づく研究発表を中心に研究を進めた。 まず、次世代研究者ワークショップ「〈地方〉再考 危機の時代のグローバル/ローカル」のパネル「日露戦中戦後の〈地方〉再考――〈東京〉の周縁と中央をめぐって――」において、「日露戦争前後の『ホトトギス』における〈地方〉──俳句と写生文を手掛かりとして──」の題目で発表した。当該の発表では、日論戦争前後の『ホトトギス』に載る諸記事を題材に、「地方」が拡大する時代相を描出した。 次に、坂の上の雲ミュージアムの講座「松山」において、「明治四〇年代の松山と文学――雑誌『四国文学』を中心に――」の題目で登壇した。従来看過されてきた松山の俳誌『四国文学』に注目し、「中央」で興隆する自然主義との関わりなど、その特色について紹介した。また、その内容を基に学術論文1篇を執筆し、学会誌に投稿した。 一般誌に寄稿した「明治時代の俳句雑誌も身近に」(『俳句』、2022.9)は、国会図書館デジタルコレクションの公開範囲拡大に関する特集の一環で、明治期俳誌の利用状況について論じた。これらの研究成果に加え、2篇の学術論文を執筆した。1篇(査読なし)は2023年8月に発表予定で、もう1編は査読中である。また、2023年度以降の研究成果の発表方法として、明治期地方俳誌の総目次等を冊子として随時刊行する計画を進めている。 加えて、2022年度は各所で資料調査を実施した。早稲田大学中央図書館や天理大学附属図書館、俳句文学館、神奈川近代文学館を中心に調査し、貴重な明治期俳誌の実物を確認した。また、展覧会に協力した勿来関文学歴史館では大須賀乙字関連資料を閲覧できた。さらに、大阪の有名俳人、松瀬青々の倦鳥文庫を訪ねる機会を得て、資料の所蔵状況を確認した。さらに、坂の上の雲ミュージアムで講座を担当した際、村上霽月邸の管理状況等に関する情報を得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は学術論文としての成果公表は少なく、調査等の都合上、当初想定していた明治30年代前半以外の時期を中心的に論じることになった。しかし、一般誌への寄稿や公開講座を通じ、明治期俳誌に関する情報を公に発信でき、情報取集ネットワークの拡張に繋がった。また、同年度中に公表に至らなかった査読中の論文や、現在執筆中の論文を含め、調査や資料整理の成果を継続的に論文化している。 さらに、明治33年前後に創刊の『虫籠』、『蓑虫』、『雪吹』については全号の悉皆調査を終えており、順次総目次を作成している。加えて、伊藤一郎氏(東海大学名誉教授)が2000年代に刊行していた『明治大正俳句雑誌レポート』(全4号)を継続させる旨、同氏から内諾を得られた。当該誌では各号特定の俳誌を取り上げ、総目次や索引、所蔵状況一覧、解題を掲げてきた。この形式は本研究の成果発表においても有効であり、今後の研究に大きく資する進展と言える。 資料調査では、次年度以降の研究を進めるうえで貴重な情報を多数得られた。まず、勿来関文学歴史館や倦鳥文庫において、明治俳人たちの自筆資料を閲覧した。特に後者では、松瀬青々の日記を確認することができた。大阪の俳誌『宝船』に携わった青々の資料は貴重であり、今後の調査は未定であるものの、新たな研究の萌芽として注目される。また、松山にある村上霽月邸の現状についても間接的に知ることができ、調査の足掛かりとして期待される。さらに、秋田の石井露月文庫とも連絡を取り、次年度以降の資料調査について相談した。そのほか、さいたま文学館に俳誌『アラレ』や『浮城』の所蔵を確認し、他箇所のものと併せて全号の所在が把握できた。一連の資料調査と準備により、2023年度にはさらなる研究の進展が見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、俳誌ごとの特色が鮮明化していく明治37年頃を主な研究対象とする。また、2022年度に取りまとめた調査結果を学術論文等として随時公表する予定である。 まず、中山稲青や中野三允らによる埼玉の俳誌『アラレ』に注目し、同誌の変遷を辿りながら明治俳壇の重要な論点を概観する。特に、東京の書肆、俳書堂との関わりに照明を当て、俳誌上で「地方」と「中央」が交錯する具体相について考察する。次に、当時独自の勢力圏を構築していた『俳星』や『宝船』、『懸葵』を対象に、各誌で中心的な役割を果たした俳人の句風や、他誌との差別化を図る誌面構成の工夫について検討したい。さらに、先行論に乏しい盛岡の『紫苑』や豊岡の『木兎』を取り上げ、句評や俳人評、俳壇評を視野に入れながら、俳誌を支える文学青年の交友圏と、その変遷を検証する。加えて、地方俳誌に掲載される写生文、小品文を広範に調査することで、『ホトトギス』のみに拠らない俳人たちの散文受容、散文実践の諸相について考察する。実作の分析とともに『浮城』や『甲矢』誌上の言説を取り上げ、夏目漱石や伊藤佐千夫らの小説が受容され、新たな散文が生まれる動態を浮き彫りにしたい。 なお、2022年度に調査した『虫籠』、『蓑虫』、『雪吹』については、解題を執筆次第『明治大正俳句雑誌レポート』として刊行する予定である。また、『アラレ』や『紫苑』、『木兎』、『浮城』、『くぢら』など、明治30年代半ば以降に創刊された地方俳誌についても、同様の冊子形式で調査成果を公表する。また、天理大学附属図書館、俳句文学館等で継続的に資料調査を実施するとともに、改めて倦鳥文庫や霽月邸に調査の可否を打診し、資料活用の道を模索したい。さらに、まだ調査が及んでいない各地の文学館にも俳誌の所蔵状況を確認し、所在が判明している個人蔵の資料についても適宜利用の可否を問い合わせる。
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Causes of Carryover |
2022年度中に研究費を使用して冊子『明治大正俳句雑誌レポート』を刊行し、各所に郵送する予定だったが、解題執筆等の遅れから2023年度に持ち越すことになったため次年度使用額が生じた。2023年度には当該冊子を刊行、郵送予定のため、その費用に充当する見込みである。
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Research Products
(2 results)