2023 Fiscal Year Research-status Report
世紀転換期(1900年前後)日本の文学空間・メディアにおける宗教思想と言説の生成
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22K13056
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Research Institution | Miyazaki Sangyo-keiei University |
Principal Investigator |
清松 大 宮崎産業経営大学, 法学部, 准教授 (70911890)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 宗教思想と文学 / 足尾銅山鉱毒事件 |
Outline of Annual Research Achievements |
博士学位論文をベースとし、一部に本科研費プロジェクトによる成果を盛り込んだ『世紀転換期文学の思想空間――明治文壇のニーチェ熱と宗教の季節』を年度末に春風社より刊行した。本研究の成果は、主に書き下ろしの第6章に反映されており、田口掬汀の宗教論について、宗教学者の姉崎正治や、清沢満之を中心とする「新仏教」勢力の言説と突き合わせている。メディア研究の観点からは、文学雑誌『新声』と宗教雑誌『精神科』との思想的近接性がより鮮明となった。 特に新たな観点として、清沢が唱えた「精神主義」と田口の宗教論が、ともにトートロジカルな論理的陥穽をはらんでいたことを発見したのは大きな成果であった。また、ここでの論点が、国木田独歩のような同時代カノン作家の思想形成とも接続しうることを展望として示せたことも、ひとつの達成であったといえる。 また、次なる成果につながる調査として、足尾銅山鉱毒事件に関連する社会運動やメディア報道、ルポルタージュ等に関する調査を進めた。その中で、鉱毒問題にはキリスト教系の団体や仏教者らの宗教者が多くコミットしていたことが明らかになった。特に注目すべきものとして、キリスト教者でもあった木下尚江が『毎日新聞』に連載したルポルタージュ『足尾鉱毒問題』(1900)や、キリスト教系の日本婦人矯風会に所属していた新聞記者の松本英子が著したルポルタージュ『鉱毒地の惨状』(1902)などが挙げられる。本年度は、こうした資料の収集と読み込みに注力した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の成果を一部に盛り込んだ単著を刊行した。また、足尾銅山鉱毒事件に関しても、多くの資料を収集することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、足尾銅山鉱毒事件について、雑誌・新聞記事等のジャーナリズム報道を中心に踏査する。他方、事件に関わった宗教団体の活動内容の詳細を明らかにしていく。それらの二要素と、上記「研究実績の概要」でふれた木下尚江と松本英子のルポルタージュが、どのように関連づけられるのかを考察していきたい。そのうえで、上記のような鉱毒事件関連のルポルタージュについて、松原岩五郎『最暗黒の東京』(1893)や横山源之助『日本之下層社会』(1899)に代表される明治期の記録文学との連続性という観点から比較検討する。 また、その数は少ないとされるが、鉱毒問題を扱った小説作品についても改めて調査する。そうした小説や上記のルポルタージュ群を、下層社会や民衆への意識という視座において、いわゆる「悲惨小説」の文脈に接続することができないかどうか探っていきたい。
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Causes of Carryover |
旧年度内に購入を予定していた書籍の発売が4月以降になったため、その費用として取っておいた額が余ってしまった。次年度使用分は、当該書籍の購入費用に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)