2022 Fiscal Year Research-status Report
アフォリズムの生成過程をめぐるメディア文化史的研究―ドイツ近代の作家を手掛かりに
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22K13096
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
二藤 拓人 西南学院大学, 国際文化学部, 准教授 (00878324)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 手稿・草稿 / 編集文献学 / 文化技術 / 百科全書 / シュレーゲル / ノヴァーリス / ドイツ・ロマン主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、アフォリズムとその編集の問題に焦点を当て、「ドイツ初期ロマン派によるアフォリズム集『アテネーウム断章集』はどのように出版・編集されたか?」という編集文献学的な問いに立脚してこの課題に取り組んだ。例えば当著作の初版は、編著者フリードリヒ・シュレーゲルの方針により、個々のアフォリズムに見出し・番号などの情報が付されないままで出版された。19世紀以降の複数の普及版、さらに戦後の批判全集版に至る一連の編集・出版では各アフォリズムに通し番号が施されており、18世紀当時の初版における形式面での特殊性(=特異なアフォリズム受容形態)は失われていることが分かった。その反面、文献資料としての利便性(引用の簡便さ、各アフォリズムを番号によって呼称・表記・参照できる等)が確保されたことになる。アフォリズム編集をめぐるこの変化は、19世紀の実証主義を背景にした精神科学の学問化・制度化と軌を一にする現象であると仮定している。この成果は国際論集への寄稿(ドイツ語)というかたちで2本の論文にし、国内外へと発信することができた。 第二に、上記の課題の範疇で、これ以外に、初期ロマン派の詩人ノヴァーリスによる遺稿アフォリズム群『一般草稿』についても調査した。具体的には、2022年に新刊された『一般草稿』の新編集版と、それまでの版との特徴を〈百科全書〉ないし〈書物〉の理念との関連から分析した。ノヴァーリスのアフォリズムに関する研究は継続課題であるが、現時点での成果を学会にて口頭発表し、意見交換・討論の機会を得た。 本研究代表者はこれまでに、「断章」の作家として知られる初期ロマン派シュレーゲルにおける「アフォリズムを書くこと」をめぐる具体的な実践のプロセスを、手稿資料に基づいて詳細に検討してきた。第三に、このアプローチを本研究でも引継ぎ、これらの成果を集約した単著を刊行することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、アフォリズムの生成・成立のプロセスを複数の作家の比較参照を通じて捉え返し、ある種の文化実践として複合的に分析・把握することを目的としている。その際に、制作現場で産出されるアフォリズムの書法の体系的考察(=資料研究;手稿研究)、当時の出版資料を参照する18世紀におけるアフォリズムの実態調査(=実証研究;出版・編集の研究)、メディア史、書物・読書史、書字史、文化技術史の基礎理解(=文化研究;総合研究)の三点を本研究の要とする。 初年度は、初期ロマン派のシュレーゲル兄弟やノヴァーリスらのアフォリズムに関して、その編集・出版の歴史に焦点を当てた「実証研究」を効果的に進めることができた。その過程で、ロマン派の作家間での比較分析を試みた。一方で、ロマン派とそれ以前の啓蒙期の作家(リヒテンベルク、レッシング、ヘルダーなど)のアフォリズムとの相違点・類似点をめぐる考察にまでは、まだ十分に展開できていない。 COVID-19が徐々に収束に向かったこともあり、ドイツ渡航による「資料研究」を実施できた。フランクフルトへ赴き、「ドイツ・ロマン派博物館」の横にある資料室にて、ロマン派の草稿資料、特にシュレーゲルとノヴァーリスの遺稿断章群の直筆草稿を閲覧・収集した。これらはデジタル・アーカイブ化されていない遺稿に属しており、今後の研究のためにも極めて重要な資料である。 ドイツ滞在中にマインツにてロマン派の書簡集の編纂に携わる研究者らと面会・交流し、上記の研究実績を含むさまざまな意見交換の機会に恵まれた。とりわけ、近代における「メモ書き/ノート」の文化技術に焦点を当てた文献カタログを紹介・共有してもらえた点、このテーマに関するドイツ語圏の研究関心の高さを確認できた点は、特筆しておきたい。これにより、本研究の「文化研究」において今後必須となるであろう重要参考文献をリストアップすることもできた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に新たに得た「メモ書き/ノート」の文化技術に関する文献資料について、まだ収集しきれていないため、これら重要文献を入手し、メモ書きの集積とアフォリズム生成との関連性を考察するための糸口を探っていきたい。こうした本研究の基盤となる文化研究として、その他に、編集文献学によるアプローチも本研究課題にとって有効であることが分かった。この学問領域における基礎的理解を固めていく作業も継続する。 また、初年度におこなったいくつかの学会発表の成果を、今年度に各学会誌へ投稿する予定でいる。具体的には、「アフォリズム」の対話哲学ないし哲学的思考として可能性をメディア論に依拠して考察した論文と、ノヴァーリスの遺稿『一般草稿』に関するアフォリズム編集をめぐる論考である。 初年度に「資料研究」のための手稿・草稿資料をフランクフルトの資料館にて入手することができた。このデータ資料についてはまだ精査が不十分であるため、資料を整理したうえで現時点で可能な分析を進めていきたい。 なお23年度も、夏季か冬季の短期休暇中に2~3週間、ドイツの各都市(ベルリン国立図書館、テュービンゲン大学、トリーア大学の各図書館)のいづれかで手稿資料収集を断続的に実施できないか調整中である。そのほか、ドイツ各都市で開催予定の各種国際学会の情報を調べており、本研究と関連するものについて参加を検討している。
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Causes of Carryover |
ドイツ・フランクフルトへの海外渡航の際に、現地での移動費や滞在費(=旅費)などが生じている。しかしこの出張が叶ったのが、COVID-19が収束に向かいつつあった2月下旬の年度末であったため、これらの費用を22年度分の「旅費」にて精算すると予算を大幅に超えてしまうことが分かった。従って、当該の海外渡航費のうち航空券代と保険代のみ22年度予算の範囲内で精算する代わりに、そのほかの立替分は次年度の予算分へと繰り越して精算することにした。22年度の「残額」は、この未精算分の「旅費」に充てられる。
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Research Products
(6 results)