2022 Fiscal Year Research-status Report
日本児童文学における「死」の語りー作品に見るその系譜と変遷ー
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22K13097
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
王 玉 北海道大学, 文学研究院, 専門研究員 (20823058)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 児童文学 / <死>の語り / 原爆児童文学 / 戦争 / 童話 / 死生観 / 『赤い鳥』 / 森田草平 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、近代童話の時代における〈死〉の語りについて、主に『赤い鳥』に掲載された作品を中心に検討してきた。また、次年度に取り組む予定の現代児童文学における「死と戦争」の問題についての研究も開始した。研究成果として、1本の論文を公表し、また、国内での共同研究発表1本も行った。 森田草平は岐阜市生まれの小説家、翻訳家である。『赤い鳥』掲載の森田草平の名による童話作品は、計七編を数える。その中、「鼠のお葬ひ」は子どもと動物の死を扱った童話である。「鼠のお葬ひ」は、子どもたちが遊びのなかで鼠を殺してしまう過程を、細かな動作や感情の機微に関する表現を積み重ねることでリアルに描き出している。こうした題材と手法の組み合わせは、『赤い鳥』の他の作品を見ても、ほとんど類例を見ない。令和4年度は森田草平の『赤い鳥』掲載童話作品を詳細に調査し、特に「鼠のお葬ひ」に描かれている〈死〉の語りの特徴、そこに含まれている森田のメッセージと、『赤い鳥』との関係性を検討した。研究成果について、「森田草平の童話作品「鼠のお葬ひ」論 : 「赤い鳥」との関係性をめぐって」(『ヘカッチ : 日本児童文学学会北海道支部機関誌』17巻)に掲載された。 また、広島大学人間社会科学研究科助教李麗氏との共同研究ができ、日本児童文学における「死と戦争」の問題を軸にし、主に朽木祥の原爆児童文学を検討してきた。朽木祥は「被爆2 世」で、原爆に関する児童文学作品を数多く創作してきた。令和4年度は、朽木祥の原爆児童文学作品における「記憶」がどの表現されているか、原爆、戦争という非常事態の下に置かれてる子どもをめぐる〈死〉の語りにどういうメッセージが含まれているかを検討した。研究成果について、日本キリスト教文学会第51回全国大会で共同研究発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は「近代童話の時代」「現代児童文学の時代」「現在の児童文学の時代」という順序から、日本児童文学における〈死〉の語りの系譜と変遷を明らかにしようとする。本研究は作品を主体的に取り上げるという研究手法に基づいている。一、それぞれの時代における「死」を扱う作品を網羅的に収集しながら、その全貌を把握する。二、代表的な作品を選定し、詳細なテクスト分析を行う。三、作品の全体像、テクスト分析を通じて、児童文学観、子ども観及び死生観の変遷を逆方向から解明する。 令和4年度は、近代童話の時代における〈死〉の語りを中心に検討した。院生時代から『赤い鳥』を研究してきた蓄積により、全貌の把握と、代表的な作品の選定、およびそのテキストの分析が順調に進められた。また、広島大学人間社会科学研究科の助教である李麗氏との共同研究の開始で、次年度の研究課題である「現代児童文学の時代における「死と戦争」の問題」に早めに着手することができた。広島平和記念資料館、広島大学での調査研究を行い、関連書類の調査・収集も順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は「現代児童文学の時代における「死と戦争」の問題」を中心に検討する予定である。具体的な研究作業を以下のように想定されている。 1. 朽木祥をはじめとする原爆児童文学における〈死〉の語りを、代表的な作品分析により、考察しようとする。共同研究で論文2本を執筆し、公表する予定である。 2.国立国会図書館子ども図書館、大阪府立国際児童文学館、神奈川近代文学館、日本近代文学館など資料館を活用し、「戦争」と「死」を描いた作品を網羅的に調査し、「死と戦争」の表現の傾向をつかむことをもとに、表現の特徴を代表的な作品の分析を通じて明らかにする。さらには「生命」の描かれ方にも注目し、戦争児童文学特有の「死生観」を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
残額は次年度の資料の複写等の費用に使用する。
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Research Products
(2 results)