2022 Fiscal Year Research-status Report
ラベル付けアルゴリズムを用いた主語・助動詞倒置の研究
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22K13139
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
小池 晃次 富山大学, 学術研究部教育学系, 講師 (50804431)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 主語・助動詞倒置 / 生成文法 / 素性継承 / ラベル付け |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画書に沿って、2022年度は現代英語における主語・助動詞倒置(特に否定倒置構文とWh疑問文における倒置)のメカニズムを最新の英語学の枠組みを用いて考察した。具体的には、現行の生成文法の枠組みの範囲内で素性継承とラベル付けという2つの考えを組み合わせることによって、これまで探求されてこなかった独自の視点から主語・助動詞倒置の仕組みにまったく新しい分析を与えることに成功した。1990年代にHaegeman (1995)によってNEG基準やRizzi (1996)によってWH基準が提案されて以来、これらの構文における倒置現象は手つかずの状態のまま放置され、原理的説明に抗ってきた。そのため、本研究は当該分野における理論的進展に一定の貢献を果たすことができたと言える。この現代英語に関する研究成果は東海英語研究第5巻において和文論文として掲載され、無事に公表することもできた。 さらに、経験的貢献も果たすために、2022年度は初期英語における主語・(助)動詞倒置の考察にも早々に着手した。研究計画書に沿って、史的電子コーパスから実際の昔の倒置文のデータを検出して提示することで、今と昔で倒置のパターンが違うことを着目した。現代英語に対して提案した分析をベースとしてそれを昔の英語にも挑戦的に適用することで、本研究が掲げる分析の妥当性を通時的な観点からも立証することができた。これまで素性継承やラベル付けは多くの研究者らによって現代の言語に対して適用されてきたが、それを昔の言語にも本格的に適用することを試みたのは私の知る限り本研究が初めてである。この通時的研究の成果は日本英語学会第40回大会における研究発表を通じて公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、2022年度いっぱいは現在英語だけを研究対象として予定していたが、2021年度のうちに理論的考察の構想がほとんど済んでいたこともあり、それを論文の形にすることで比較的早期に共時的考察にひと段落付けることができた。ちょうど時期を同じくして、日本英語学会からシンポジウムの機会を与えていただいたことで研究意欲が増し、昔の英語における倒置現象まで調査範囲を広げることができた。初期英語における倒置現象の研究調査は当初の予定であれば、2023年度になってから着手する予定だったので、本研究は当初の計画以上に進展していると判断できる。さらに、1月にはコロキアムの講師として恩師にお声を掛けていただき、この発表の機会を前向きにとらえて、英語における主語位置の通時的変化というさらに派生した研究テーマにも研究範囲を拡張することができた。こうして、当初予定していた研究テーマはしっかりと業績を残しつつ、さらに研究の裾野を有意義に広げられたので、実りの多い1年となった。
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Strategy for Future Research Activity |
初期英語における主語・(助)動詞倒置について理論的分析は提案できたものの、電子コーパスを用いた詳細な経験的事実の調査(とりわけ量的なデータ)が十分に行えていない。そのため、今後は話題要素あるいはWh句および否定要素など文頭の要素によってデータを細かく分類したうえで主語・動詞倒置文の使用頻度の史的変遷や消失時期などを明らかにしたい。こうした新たな経験的発見も盛り込んだ論文を執筆し、学術雑誌(今のところIVY第56号)に論文を投稿することを目下の目標として据える。また、上述したコロキアムで発表した主語位置の通時的変化に関する考察についても論文化にして年度末に学術雑誌(今のところ東海英語研究第6巻)へ投稿したい。こうして、本研究の成果をより多くの研究者の目に触れるようどんどん外部へ公表したいと考える。
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Causes of Carryover |
【物品費について】2022年度の研究で必要となった一部の論文はオープンアクセスの論文であったため購入する必要性は生じなかった。 【旅費について】日本英文学会第94回大会、第8回史的英語学研究会、日本英語学会第40回大会はすべてZoomを用いたオンラインで開催されたため、交通費や宿泊費は生じなかった。 【使用計画について】本研究が進むなかで派生したテーマであるthere構文に関する研究論文や研究図書は入手できていないため、これから新たに購入する必要がある。これは2023年度へ繰り越す物品費で購入する予定である。また、2023年度は日本英文学会や日本英語学会などいくつかの学会が対面形式で開催される予定である。これは2023年度へ繰り越す旅費から費用をまかなう予定である。
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