2022 Fiscal Year Research-status Report
「技能の供給」論ー20世紀南アフリカにおける女性職工の技能教育の社会経済史的分析
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22K13190
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Research Institution | Chiba Keizai University |
Principal Investigator |
宗村 敦子 千葉経済大学, 経済学部, 講師 (20828355)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 産業学校 / テクニカル・カレッジ / 児童保護 / 技能育成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は12月と3月の2度にわたり、南アフリカ共和国における文書館史料調査を実施した。1920年代から1960年代までを扱う通史的な研究課題のなかで、本年度は女性職工の育成の黎明期にあたる1920年代に限定して、当時の南アフリカ連邦の西ケープ州における女子徒弟育成に関する史資料を収集した。とくに重要な現地調査の成果には、西ケープ公文書館に所蔵されていた特殊資料である、NICROアーカイブにたどり着けたという点が挙げられる。同史料は、1920年代の女子の中等教育退学児童の徒弟への就労能力を計測しようとした当時の大学・労働関係省庁・児童保護団体間の議論を収録した特殊資料群である。 女子職工の技能育成を扱うにあたり、調査中は「なぜ女子の就労にいたる社会経済的障壁が男子のそれよりも高いのか」という問題を、技能教育を専門とするテクニカル・スクールに限定せず、中等教育退学者を収容し同じく技能教育をになった産業学校との関わりで考察した。研究計画調書の上では見通せていなかった論点ではあるが、徒弟教育がすでに制度化されている1920年代の男子職工とのちがいを明らかにする上では、未整備であった女子の就労支援環境という非常に有益な視点を得ることができた。 本年度末にこれらの調査成果は研究ノート「南アフリカ産業学校史試論――1920年代西ケープにおける女子の保護を中心に」『千葉経済論叢』第68巻(未公刊)にまとめられた。この論稿は、1920年代の女子就労支援団体関係者が、犯罪学での予防理論からくる児童保護と女子の就労能力開発を結びつけ、福祉政策の一環として活動していたことを論じている。次年度は、①産業学校より遅れて制度化される女子テクニカル・カレッジとの間で、いかに教育内容がすみ分けられていったのか、②そのすみ分けのなかで機械操作を伴う技能育成を促進する言説がどのように生じたのかを調査する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の研究では想定していなかった論点について考察し、しかし現地調査で得られた知見をもとに研究ノートをまとめることができたため、「順調に進展している」と評価した。 大きな成果と言えるのは、徒弟職工制度が整備された男子の就学就労環境とちがいを、児童保護・家庭教育思想・南アフリカと他国の先住民への技能教育思想のちがいなど、複数の視点をからめて考察できたことである。先住民女子への技能教育の動向については、上記のNICROアーカイブの中から、南アフリカとニュージーランドの状況を比較するような議論が当時から存在したことを示す一次史料を見つけることができた。それによれば、アフリカ人女子職工の育成について、縫製分野では彼女らにはミシンを与えず、あくまで裁縫による運指訓練を重視する教育論があることや、それへの批判が起きていたことなどが明らかになった。このような女子児童を取り巻く複雑な技能育成状況を考察することは、労働組合による徒弟教育からの女性の排除という点で議論されてきた先行研究にたいしても、今後より多くの論点を提起できると考える。 また二度の調査のなかでマルチ・アーカイバルサーチを駆使した成果として、産業学校が所在した西ケープの農村地域における敷地周辺の地図や、産業学校での設備等を細かく指示した建設設計図など、その技能育成環境を具体的に伝える資料を収集することができた。これらは、具体的にどのような立地が季節労働者という流動性の高い労働者の技能育成と関係しているのか、また人種分離が進みつつあった当時の南アフリカの社会状況下で、農村部での分離がどのようにして実体化されたのかを議論する上で非常に有用である。これらの成果をもとに、次年度に実地調査をするためのいくつかの準備を同時進行で進めることができたため、本年度は順調に研究計画を遂行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者は史料調査で得られたいくつかの図像を用いながら、研究成果の論文化と同時にウェブサイトでの研究実施過程の報告を試みる。史料の公開規定、文書館からの認可の可否が当面の課題となるが、概ね当初の研究計画に沿って成果を出す予定である。 上記の調査成果は次年度、児童保護と技能教育を結びつけて発展してきた産業学校政策に焦点を当て、英語で発表される予定である。すでに執筆した研究ノートをもとに、1920年代の女子産業学校卒業後の徒弟制度への連結関係を具体的に考察する。南アフリカ連邦の女子徒弟制度については、管見のかぎりそもそも女子教育史のなかでも議論した先行研究がないため、その点を踏まえて工場労働とともに工場周辺でなされる定期的な就労訓練制度がどのようにして練られていったのかを明らかにする。 また申請者はこの研究の土台となる西ケープ缶詰職工の女子の賃金の特殊な状況について、予備的考察を進める準備をしている。これは研究計画調書のなかで掲げた成果目標であり、2025年度末を目処に、国際学術雑誌Gender and Historyでの英語論文として投稿することを考えている。そのため本年度の現地での調査研究と並行して、執筆投稿の前提として義務付けられている2024年度の同学会による国際会議発表にすでに応募している。
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Causes of Carryover |
本年度は、会計年度前半でまだコロナ感染症対策の状況が変動的だったため渡航に慎重にならざるを得なかったことと、国際線の渡航旅費が全体的に高騰していたという事情から、渡航回数を調書作成時の予定よりも少なくせざるを得なかった。この理由からできるかぎり航空券代金の節約を試みたため、逆に少額の次年度使用額が残ってしまった。 そこで次年度使用額は、現在まだ高騰が続く渡航費用を賄うには不十分なため、国内で論文執筆のために使用する研究物品の購入のために活用したいと考えいてる。
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Research Products
(3 results)