2022 Fiscal Year Research-status Report
戦国期奥羽領主の権力編成と「洞」-福島県浜通りと隣接地域を中心に―
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22K13194
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
泉田 邦彦 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (50908655)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 戦国期 / 奥羽 / 洞(うつろ) / 郡主 / 福島県浜通り / 岩城氏 / 相馬氏 / 古文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、南奥海道地域(現福島県浜通り)の領主である相馬氏及び岩城氏を主な検討対象とし、戦国期における権力編成やその特質を追求することで、戦国期奥羽領主研究の枠組みを再構築することを目的とする。研究期間は3ヵ年である。 1年目にあたる2022年度は、研究計画に従い、海東家文書をはじめとする相馬氏関係文書の資料調査に取り組んだ。相馬氏関係資料に関しては、海東家文書から新出の中世文書の写を7点、さらに相馬市内個人宅において自治体史未掲載の中世文書原本を見出した。これらの成果については、2023年度中に刊行される『相馬市史』通史編(原始・古代中世)・中世資料補遺編にて公表される。また、岩城氏に関しては、永禄~天正年間の当主である岩城親隆・常隆父子の発給文書の網羅的収集を試みた。特に常隆に関しては、東京大学史料編纂所における影写本調査によって、博士論文執筆時には見落としていた発給文書を補完し、現段階で判明する限りの発給文書の原本・写をほぼ確認することができた。この成果については、論文を学会誌へ投稿しており、2023年度中の掲載が決定している。 一方、本研究の主目的である戦国期奥羽領主研究の枠組みの再構築に関しては、東北大学日本史研究室編『東北史講義』(筑摩書房、2023年3月)所収の拙稿において、その前提となる14・15世紀奥羽政治史を「一揆」を主軸に考察し、室町期の国人から戦国期の領域権力への変質を見通した。戦国期特有の「郡」の形成を見通したことは、戦国期奥羽領主を「郡主」で捉えようとする研究視角を補強するものになるだろう。 ところで、本研究は中世史研究のみならず、研究フィールドである福島県浜通り=原発事故被災地における歴史・文化継承も視野に入れている。この点については、共編著『大字誌両竹』第4号(蕃山房、2022年12月)を刊行し、近世絵図から沿岸部の歴史的景観の復元を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目は、研究に関しては概ね研究計画どおり進めることができた。2023年度に刊行予定である『相馬市史』通史編では、室町期の相馬氏と海道地域に関する章を執筆担当しており、戦国期を考察する基盤が整いつつある。 一方で、資料調査に関しては思うように進められず、課題が生じた点もあった。例えば、自治体史掲載史料の原本調査を行うべく、当該自治体や掲載時の所蔵者居住地の自治体(博物館や文化財担当部署)に連絡をとったものの、所蔵者の情報が把握されておらず、原本調査につながらないケースや、編纂史料が閲覧できなケースがあった。自治体史編纂時の収集史料や所蔵者情報が自治体史刊行後は過去のものとされ、等閑視されてしまっていること、自治体史編纂時の所在情報が更新されていないことが理由であるものと思われる。自治体が所在把握できていない史料は、所蔵者自身も代替わり等の理由で存在を認知できていない場合が多く、史料の散逸・亡失が懸念される。 また、福島県浜通り=原発事故被災地に関しては、研究の傍ら、引き続き資料保全活動に取り組むことができた。2022年度は、双葉町教育委員会に協力し、原発事故の影響で帰還困難区域に指定されている地域において、大字行政区文書の資料保全活動を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
相馬氏関連史料は、2022年度までの調査でほぼ網羅できたものと思われる。これは相馬氏が鎌倉末期に福島県浜通りに下向して以降、一度の国替えも経験せず、明治維新に至ったため、他県に多くの資料群が移動したわけではないことが理由に挙げられる。今後はこれまでの成果に基づき、戦国期の権力編成について研究を深めたい。 岩城氏関連史料は、中世の旧領である福島県浜通りを超え、隣接する茨城県北部地域、近世以降の所領である岩手県南部・秋田県にも調査範囲を拡大する必要がある。特に秋田藩領・仙台藩領においては、写を含め岩城氏関連史料が散見されるため、次年度以降は精力的な資料調査が求められる。原本調査によって、料紙や花押型が判明し、新たな知見を提示できる可能性が高まることから、引き続き取り組んでいきたい。 2年目以降は、中奥領主(特に葛西氏)の原本調査が研究計画に入ってくる。史料の多くは、宮城県北東部、岩手県南部に集中しているが、専論が限られており、新たな史料の掘り起こしも視野に入れて取り組む必要があるだろう。 本研究では、研究成果を論文にまとめるだけでなく、関連地域で講演会やシンポジウムを開催し、住民に成果を直接還元することも視野に入れている。最終年度の3年目に実施するためには、2年目に自治体担当者と調整を図る必要があり、この点も計画的に進めていきたい。
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Causes of Carryover |
古文書の原本調査を複数回実施する予定であったが、当該自治体の文化財担当部署や博物館に連絡したものの、原本所蔵者がわからず、計画通りに進めることができなかった。また、物品については個人宅における原本調査を行う際に、中性紙封筒や資料保存資材を購入する予定であったが、原本調査に至らなかったため、2022年度は購入しなかった。 次年度以降は原本調査を精力的に進め、旅費や資料保存資材に使用する予定である。 これまで実施した調査の過程で、自治体史未掲載の中世史料を複数発見している。それらの情報をまとめて報告書等の形で公表し、広く共有することにも一定の意義があることから、場合によっては、印刷費として使用することも視野に入れている。
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Research Products
(6 results)