2022 Fiscal Year Research-status Report
世界恐慌期の協同組合運動の国際比較研究ー賀川豊彦の思想と実践を中心に
Project/Area Number |
22K13195
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
TAO BO 千葉大学, 国際未来教育基幹, 特任助教 (30909263)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 賀川豊彦 / 協同組合 / 消費組合 / ロッチデール / マンチェスター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近代日本を代表するキリスト教社会活動家であった賀川豊彦(1888-1960)が「生みの親」とされる日本の協同組合運動を対象とし、同時代の欧米の協同組合運動との比較研究を通じて、その思想的根源・特徴及び伝播の歴史を明らかにすることを目的としている。研究の初年度にあたる2022年度では、先行研究の調査と関連文献等の資料収集を主な課題としたほか、関連学会での研究報告も行った。 日本国内の協同組合運動については、6月に賀川豊彦記念・松沢資料館を訪問し、賀川が1920年代に東京に設立した江東消費組合に関する資料を収集した。同調査の初歩的な成果を、10月に専修大学生田キャンパスで開催された社会思想史学会(第47回大会)の自由論題報告において、「賀川豊彦における協同組合思想の特質―救済と平和を目指す精神運動として」というタイトルで発表した。 また、協同組合運動のグローバルな展開を探るため、2023年3月に同運動の近代的な発祥地とされるイギリスへの海外資料調査を行った。出張中はマンチェスターにある協同組合関連資料のアーカイブであるNational Co-operative Archiveでの資料収集を中心に、ロッチデール開拓者博物館やリヴァプール博物館など、周辺の地域や関連施設への実地調査も行った。その結果、多くの資料を得ることができたほか、現地アーカイブの学芸員との交流を図ることができ、1872年時点ですでに日本人がロッチデールの先駆者協同組合を訪れていたことなどが分かった。 現在はこれらの調査で入手した資料を先行研究に照らしつつ、データの整理を行い、分析を進めている。また、当初の研究実施計画の中で言及した、デジタル人文学の手法によるデータの分析及び視覚化プロジェクトはまだ作成中であるが、全体の概要を示す簡易的なストーリーマップを作った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の初年度における進捗は予定よりやや遅れている。 日本国内の協同組合運動に対する研究は当初の予定よりやや遅れており、江東消費組合についてのみ先行研究や資料の調査を完了している。 協同組合運動のグローバルな展開については、イギリスでの実地調査を行い、貴重な資料を入手することができた一方、交通に関する不測の事態も起きた。というのは、英国滞在中に全国的な鉄道ストライキが敢行されたため、マンチェスターからスコットランドへ行くための交通手段がなくなり、調査日程の変更を余儀なくされた。その結果、18世紀にロバート・オウエンが経営したニュー・ラナーク産業集落へ行くことができず、オウエンの思想的根源を現地で調査することは叶わなかった。 また、本研究を通して明らかになったことをまとめた出版物の成果はまだ出せていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策においては、(1)日本国内の協同組合運動の調査の継続、(2)海外の協同組合運動のデータ整理・分析及び資料調査の継続、(3)研究成果の公表・発信、という三つの方面に注力したいと考えている。 (1)については、日本における相互扶助的な経済組織の源流とされる大原幽学の先祖株組合や報徳運動などを中心に、協同組合の伝統を探ると同時に、信用組合や医療利用組合の資料を収集する予定である。 (2)については、初年度に収集したイギリス協同組合運動の資料をベースに、アメリカやドイツなどにおける運動の影響や日本との関係を調査し、そのデータの整理・分析を進める予定である。 (3)については、昨年10月に研究報告を行った社会思想史学会の年報『社会思想史研究』に論文を投稿する予定である。また、海外への情報発信として北米アジア学会でのパネル報告の応募や、デジタルな発信源としてのストーリーマップの構築も進めていきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍などの諸事情で当初予定していた、謝金を伴うワークショップやセミナーが開催できなかった。また、イギリス資料調査中に発生した不測の事態のため(全国的な鉄道ストライキ中で、長距離の交通手段が限られていた)、当初の日程を実行できず、予定より旅費が余った。これらの資金は、次年度のアメリカにおける資料調査や国際学会での研究報告のための旅費や、シンポジウム等の準備費用として使用する予定である。
|
Remarks |
デジタルストーリーマップ(作成中)
|
Research Products
(2 results)