2022 Fiscal Year Research-status Report
室町時代における京都と東国の政治・文化的関係の解明―文芸史料の検討から―
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22K13217
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
川口 成人 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員 (40896560)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日本中世史 / 室町時代 / 文芸史料 / 京都 / 東国 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、室町時代の京都と東国の文芸活動を通じた交流の検討を中心に取り組んだ。具体的には以下の3点にまとめられる。 ①東国における文芸活動 15世紀前半に京都から東国を旅した歌僧の紀行文「麓のちり」をはじめ、和歌・連歌史料を中心に史料を収集し、検討を加えた。ここでは今川了俊の著作『落書露顕』から、奥州武士の鎌倉での連歌事績をみいだした。室町時代の奥州武士の連歌活動のみならず、鎌倉への集住(在鎌倉)を示す貴重な事例となる。このほか、五山文学関係史料の人名比定を検討し、鎌倉府配下の武士の政治・文化的動向を示す記述として把握し直した。これらの検討をまとめ発表することは、次年度以降の課題となる。 ②京都における文芸活動 室町幕府に仕える直臣細川奥州家について、文芸事績を中心に検討を加えた。特に、奥州家初代顕氏の菩提寺開創説話を未翻刻文書と照らし合わせることで、菩提寺の性格、所在地や所領に新たな知見が得られた。これについては、現所属の受入研究者主催の研究会で報告した。また、京都府立京都学・歴彩館主催の府民講座でも講演し、一般に向けて発信した。現在査読付雑誌への投稿を目指し準備を進めている。関連して、戦国時代の奥州家の政治動向に関する小文を発表した。 ③京都と東国に関する未紹介史料の発見 ①②に関する史料収集を進めるなかで、室町時代の京都と東国に関する未紹介史料をみいだした。未紹介ゆえ詳論は避けるが、東国政治史の重大事件の理解を改める可能性を持った文書を含む。これを学界へ広く紹介するため、現在所蔵機関と調整を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、上記のとおり①東国の文芸活動、②京都の文芸活動に分けて検討を進めた。①については論文発表に至らなかったが、既刊史料の再検討により新たな文芸事績がみいだせたのは大きな収穫だったと考える。また②については、菩提寺開創説話と古文書を合わせて検討することで、近年注目される武家菩提寺論に一石を投じる見通しが立ったといえる。さらに当初の予定にはなかったが、③で述べたとおり京都と東国に関する未紹介史料を発見できたのは大きな成果である。 以上、次年度以降の本格的な研究成果の発表に向けて、着実な蓄積が得られたため、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は2022年度の実施状況を踏まえ、以下のとおり研究を進める。 (1)前年度に実施した研究の論文発表 上記②と③について、個別研究の論文および史料紹介の執筆を進める。②については、すでに成稿を進めているが、細部に検討の余地を残している。適宜、補充調査を実施した上で、早急に発表したい。③については、かなりの点数になるため、史料全体の紹介を準備するとともに、一部を先行して学会発表し、論文化を進める予定である。 (2)室町時代の京都と東国の政治・文化的関係の全体像の素描 当初の研究計画では、2年目に文芸史料を活用した武家勢力の活動考証を進める予定であった。しかし、2022年12月に日本史研究会中世史部会からの依頼で、2023年10月に開催される日本史研究会大会の共同研究報告を担当することになった。全国から多くの研究者が参加する、非常に重要な機会であるため、研究計画を変更することにした。具体的には上記①で検討した京都と東国の文芸を通じた交流の内容について、個別論文ではなく全体像を構成する要素として位置付け発表する。これにより、現時点における室町時代の京都と東国の政治・文化的関係の全体像を提示することを目指したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、①研究代表者の体調不良により、予定していた史料調査・関連学会への出張を数回見送ったため、②史料の複製請求の手続きが年度をまたがったためである。 次年度使用額は、史料の複製費・前年度に実施できなかった史料調査旅費・関連図書の購入費などに充てる予定である。
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Research Products
(3 results)