2023 Fiscal Year Research-status Report
室町時代における京都と東国の政治・文化的関係の解明―文芸史料の検討から―
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22K13217
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
川口 成人 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD) (40896560)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日本中世史 / 室町時代 / 文芸史料 / 京都 / 東国 / 享徳の乱 / 都鄙和睦 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、2022年度の実施状況を踏まえつつ、以下のとおり研究を進めた。具体的には以下のとおりである。 ①中世後期釜利谷郷の史料紹介 武蔵国六浦荘釜利谷郷(現神奈川県横浜市金沢区)に関する新史料を紹介し、室町期の釜利谷郷領主が室町幕府直臣細川奥州家だったことを明らかにした。合わせて、戦国期の釜利谷郷に登場する釜利谷伊丹氏の出自が、所領支配のために派遣された奥州家被官であることを指摘した。釜利谷伊丹氏の館には、鎌倉五山の禅僧玉隠が訪れたことが知られる。これは、東国内部の武家と禅僧の交流ではなく、京都と東国を往来する武家と鎌倉五山禅僧との交流として重要な事例となる。 ②文明期「都鄙和睦」交渉の再考 約30年にわたる中世後期東国の内乱(享徳の乱)を終結させた、室町幕府と古河公方の和睦交渉(文明期「都鄙和睦」交渉)に関する新史料4点を検討し、学会発表した。古河公方側で交渉に参加した山内上杉氏被官長尾景春が、以前より京都との交渉経路を有していたこと、関東管領山内上杉氏の本拠地五十子陣を崩壊させた直後に京都に連絡していること、交渉に参加した禅僧以浩妙然が、通説の京都大徳寺ではなく鎌倉山内大徳寺に属していたことなどを明らかにした。 ③室町時代の京都と東国の政治・文化的関係の全体像の素描 日本史研究会中世史部会大会で報告し、これをもとにした論文が掲載された。この報告では列島各地を扱ったが、なかでも東国を大きく取り上げた点に特色がある。具体的には、東国の守護所や鎌倉での文芸活動、京都の武家が東国に置いた武家菩提寺、京都と東北・東国との武芸を通じた交流につき、従来未活用の文芸・武芸関係史料を用いて、多くの個別事例を明らかにした。これにより、室町期の京都と東国の持つ文化的関係の継続、東国の文化の場として鎌倉が求心性を有していたことが明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、上記のとおり主に①中世後期釜利谷郷の史料紹介、②文明期「都鄙和睦」交渉の再考、③室町時代の京都と東国の政治・文化的関係の全体像の素描について、研究を進めた。①については、史料紹介を発表することができ、室町期の在京領主の東国所領支配や京都の武家と鎌倉五山の禅僧の交流という、政治・文化双方にまたがる論点に接続する成果が得られた。また②は享徳の乱終結過程の理解を一変させるものであり、中世後期政治史研究における意義は非常に大きい。なお学会発表の際、東国政治史研究を牽引する多くの研究者から貴重な意見が得られたことも付記する。③では東国政治史・社会史において重要な中世後期鎌倉の武家集住について、新たな知見をもたらすとともに、史料上の制約を克服する方法も提示できたと考える。ただし、前年度進めていた細川奥州家の菩提寺については、寺院史・荘園史研究者の多く参加する東寺文書研究会で報告した際、修正・再考を要する指摘を受けた。そのため論文化には至らなかった。 以上を総合的に勘案して、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は2023年度の実施状況を踏まえ、以下のとおり研究を進める。 (1)文明期「都鄙和睦」交渉の再考 上記②について、論文執筆を進める。2023年度の学会発表では報告時間の関係もあり、新史料の紹介や東国側で交渉に関与した人物の検討が中心になった。しかし、新史料は、従来使用されてきた交渉関係文書の年次比定や、京都側で交渉に関与した人物の動向についても再検討を迫るものである。前者は、交渉過程のみならず、従来の年次比定に依拠した政治過程の見直しをもたらす点で、重要な意義を有する。後者は、新史料に登場する人物の立場や動向を確定する上で、文芸史料の活用が威力を発揮する。すなわち、本研究が掲げている「文芸史料を活用した武家勢力の活動考証」のモデルケースとして位置付けられる。よって、この研究を中心に据え、論文執筆を進め、早急な発表を目指したい。 (2)細川奥州家菩提寺の研究 ここまで論文化に至っていない細川奥州家菩提寺の研究についても論文執筆を進める。なお、2023年度の史料調査で、奥州家に関する新たな史料もみいだしている。これらの検討とともに、学会発表で指摘を受けた点について再検討していきたい。 このほか、上記①については、神奈川県立金沢文庫より依頼を受け、本研究の成果を一般に向けて発信する講演を予定していることを付記する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、当初紙焼き史料として入手する手続きを進めていた大部の史料について、原本所蔵機関・データ所蔵機関および共同調査者との相談により、現地での調査・撮影に切り替えたためである。現地での撮影自体には費用がかからなかったため、当初計画していた複製費と調査旅費との差額で、次年度使用額が生じることになった。 次年度使用額は、史料調査旅費および関連図書の購入費などに充てる予定である。
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Research Products
(5 results)