2022 Fiscal Year Research-status Report
ハイドロゲルの摩耗機構解明~低摩耗な生体代替素材の創製に向けて
Project/Area Number |
22K14170
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
八島 慎太郎 九州大学, 理学研究院, 助教 (40768842)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ハイドロゲル / 摩耗 / 摩擦 / ポリビニルアルコール / 全有機炭素測定 / 紫外分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハイドロゲルは一般的に柔軟で高含水率であり、優れた低摩擦性を示す。そのため、人工関節軟骨などの優れた滑り運動特性が求められる生体組織の代替物質として応用が期待される。これまでにゲルの滑り摩擦については数多くの研究がなされてきているが、ゲルを摩擦させたときに必然的に生じる「摩耗」については、詳しく調べられてこなかった。既往研究の多くは、滑り運動後の表面観察像や摩擦係数の時間変化などから摩耗の程度の大小を判断するにとどまり、定量性のある結果は非常に少ない。なぜなら、ゲルは空気中では容易に乾燥して収縮し、水中では摩耗部が膨潤してしまうため、重量測定や形状観察ではいずれも精確に摩耗量を測定できないためである。また、ゲルの微小な摩耗は検出すること自体が困難である。 こういった理由から、材料としてゲルを応用するために摩耗は必須の評価項目であるが、定量性に欠ける議論しか成されてこなかった。ポリビニルアルコール(PVA)ゲルについて、摩擦後のゲル本体ではなく、潤滑液中に存在する摩耗粒子に着目し、ゲルの摩耗量が2つの手法で測定可能であることを示した。PVAの未鹸化部が紫外吸収(280nm)をもつことから、紫外分光法により潤滑液中の摩耗粒子由来のポリマー濃度を測定し、ゲルの摩耗量を定量的に求めることができた。また、潤滑液の全有機炭素測定(TOC)を行うことで、摩耗粒子の炭素量からゲルの摩耗量がより高感度で測定できることを示した。一般的に低摩耗とされるゲルの摩耗を初めて精確に定量できたと考えられる。 PVAゲルの表面形状が摩耗に及ぼす効果をこれらの手法により確かめたところ、平滑なガラスを相手基板にした場合、凹みの表面構造もつゲルでは平坦なゲルに比べて潤滑液中に放出される摩耗粒子濃度が低いことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、ゲルの摩耗量の定量測定について、2つの手法を確立できたので、このように自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
ゲルの摩耗を定量的に評価する方法が確立されたので、ゲル表面の摩耗痕や摩耗片が作られる過程を表面観察などにより調べ、摩耗ダイナミクスと、測定した摩耗量、摩擦データを組み合わせることでゲルの摩耗機構の理解を進める。また、ゲルを高強度化する手法と、表面パターニングを複合化することで、高強度化と低摩耗・低摩擦化が両立可能であるかどうかを確かめる予定である。
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Causes of Carryover |
ゲルの摩擦相手基板を洗浄するための装置を主に計上していたが、高度な洗浄を行わずとも、手法確立のためのゲル摩耗量の測定は十分な精度で実施できたため、今年度の購入は見送りにした。次年度以降に、より低摩耗領域を測定するために必要な場合には、高度洗浄装置を改めて購入する予定である。
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Research Products
(1 results)