2023 Fiscal Year Research-status Report
製鋼ダストの利用に向けた塩基性浴での亜鉛の電解採取における塩化物イオンの挙動解析
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22K14523
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岸本 章宏 京都大学, 工学研究科, 助教 (50816600)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 電解採取 / 塩基性浴 / 塩素ガス発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄スクラップのリサイクルで多量に発生する製鋼ダストは亜鉛を多量に含むことから重要な亜鉛資源である。ただし、種々の不純物も含まれることから、従来の硫酸酸性浴を用いた亜鉛の電解採取の原料として製鋼ダストを利用するには種々の前処理が必要である。本研究では、このような製鋼ダストの前処理の簡略化および電解採取の消費電力の削減が期待される塩基性浴(水酸化ナトリウム水溶液)を用いた電解採取による亜鉛のリサイクルプロセスの開発に取り組んでいる。 製鋼ダストに不純物として含まれる塩素は、従来の硫酸酸性浴での電解採取において亜鉛の再溶解や剥離性の悪化、アノードの溶解、有毒な塩素ガス発生の要因となる。これに対し、塩基性浴では熱力学的に塩素ガスは発生にくく、塩素が混入した場合にも電解採取をより安全に実施できる可能性がある。そこで、前年度は塩化物イオンとして塩化ナトリウムを添加した塩基性浴中で亜鉛の電解採取試験を実施した。 本年度は塩化物イオンを添加した塩基性浴中での亜鉛の電解採取におけるアノードのニッケル電極の分極挙動および発生ガスについて実験的にさらなる調査を行った。種々の濃度の塩化ナトリウムを含む塩基性浴中でニッケル電極のアノード分極曲線を測定した結果、塩化ナトリウムの有無による分極曲線ならびに電解前後のニッケル電極の重量変化に大きな差異は見られなかった。また、いずれの場合も発生したガス中に塩素ガスは検出されなかった。以上の結果から、当初危惧された塩素ガスの発生やアノードのニッケル電極の溶解が塩基性浴では起こりにくいことが分かった。さらに、塩化ナトリウムの添加によるアノード分極曲線の大きな変化は見られず、アノードでの反応への影響も小さいと期待される。ただし、塩化物イオンの酸化によって塩素を含有する溶存種が生成する可能性もあるため、電極反応の詳細については溶液分析によるさらなる調査が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度に電解試験中に発生したガスの分析が可能な電解セルと各種電極等の装置のセットアップが完了し、実際に塩化物イオンを含有する塩基性浴を用いて亜鉛の電解採取試験を実施した。令和5年度はこれらのセットアップを使用し、塩基性浴を用いた亜鉛の電解採取におけるアノードのニッケル電極の電位挙動およびガス発生に注目した各種電気化学測定を行った。その結果、塩化物イオンの有無によるニッケル電極の重量変化やアノード分極挙動は明確な変化は見られなかった。また、各塩化物イオン濃度(0 M, 0.1 mM, 0.01 M, 1.0 M)、電流密度(1-200 mA/cm2)においてニッケルアノード上で発生するガスの分析についても実施し、いずれの場合も塩素ガスは検出されなかった。これらの結果から、塩基性浴では塩化物イオンの有無によるニッケルアノードへの影響や塩素ガスの発生は起こりにくいと考えられる。ただし、アノード分極挙動からは判別できない量の次亜塩素酸等の溶存種が液中に生成する可能性があるため、電極反応の解明には溶液分析等が新たに必要であることも分かった。 このように当初予定していた塩化物イオンを含む塩基性浴中でのニッケルアノードの挙動の調査は実施できており、本研究は順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に実施した塩基性浴を用いた亜鉛の電解採取におけるニッケルアノード上での電ガス発生や分極挙動に関する調査から塩化物イオンの添加による大きな影響はないものと考えられる。一方で、前年度までの研究からカソードで析出する亜鉛の析出形態については塩化物イオンの影響を受けることが確認されている。そのため、次年度以降は析出メカニズムの理解とその制御を目指し、塩基性浴を用いて種々の条件での亜鉛の電解析出試験による系統的な調査を進める予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度は前年度までに作製したセットアップを使用し順調に研究を進めることができた。一方で、研究のさらなる進展を目指して当初導入を予定していた電気化学測定装置については円安の影響によって申請当初に行った価格調査時よりも単価が大幅に上がっており、当初予定していた助成金の使用計画では購入が難しいことが判明した。このような理由から、助成金の使用計画の再検討と前倒し支払い請求等の手続きを行う必要が生じ、電気化学測定装置の導入が遅れたために上記のような次年度使用額が生じた。ただし、これによる研究の進展への影響は抑えられており、また当該装置の導入についても引き続き手配を進め、次年度に導入を行う予定である。そのため、次年度使用額は当初に請求した次年度の助成金と併せ、引き続き装置や電解セル、試薬の購入のための物品費、成果発表や情報収集のための旅費、その他の経費に使用する予定である。
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